novel long1

□その手はいつも
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< 序章 >





 研究室と言うのはたいてい雑然とした空間だ。様々な資料や文献の類が山積みされていたり、作業中でも摂れるような軽食が持ち込まれた袋のままで床の上に置かれていたりする。


 サクラの研究室も例外なく雑然とした空間と化していた。作業に使う机の上と、体を休めるためのソファーだけがかろうじてぽっかりと空間を保っている。ここに篭り始めてから二週間ほどが経っただろうか。一つのことに夢中になると、時間の感覚も麻痺してしまう。そのことだけに集中してしまうのは、サクラの悪い癖だ。

 ようやく研究の成果を形に出来そうなところまできているのだから、サクラが家にも帰らずにずっとこの研究室に閉じこもってしまうのも仕方がないといえば仕方がなかった。


 しかし、そろそろ仕方がないとも言ってられなくなってきた人がいる。


――――コンコン


 研究室のドアを控えめにノックする音がして、静かにドアが開いた。ドアの開いた隙間からナルトが顔を出してそっと中を窺う。サクラは机に向かったままこちらを振り向く素振りもない。

――コンコン

 ナルトは、先程よりも少し強めに壁をノックしながらドアを閉めた。ノックした音は聞こえているはずなのに、サクラは机から顔を上げない。ナルトは、ゆっくりとサクラへと近付いていった。サクラまであと数歩というところで、ようやくサクラの視線がチラリとナルトを見た。
 部屋への来訪者がナルトであることを認識すると、その視線は直ぐに机上に戻ってしまった。

「どうしたの?」
「ん、ちょっとね」
「…ごめん、もうちょっとなんだ」
「ん」

『最近もこんなやり取りをしたな……』とチラリと思いながら、ナルトはサクラの走らせるペン先を覗き込んだ。次々に紙上に書き込めれていく専門用語の羅列にナルトは渋い顔をした。

「サクラちゃん、なんか飲み物もらっていい?」
「冷蔵庫にお茶入ってるから。あ、私にもお茶取って」
「あいよ」

 ソファー近くに置かれた冷蔵庫の扉を開ける。冷蔵庫の中には数本のビンが並んでいた。ナルトはお茶を手に取ると、その奥に薄いピンク色の液体の入ったビンがあった。「何味?」そう思いながらそのビンを手に取った。

「置いとくね」
「ん、ありがと」

 サクラの机の上にお茶を置くと、ナルトはソファに腰を下ろす。冷蔵庫から持ってきたビンの蓋を開けて口へと運ぶ。



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