novel long1
□繋 想 -ツナグオモイ-
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パラリ、パラリと紙を捲る音だけが部屋に響く部屋で、ナルトはじりじりとした何とも言えない緊張に包まれていた。ナルトがゴクリと固唾を飲んだ時、ページを捲っていた綱手がその手を止めた。
「よし、いいぞ」
「っはぁ〜〜」
ナルトは空気の抜けた風船のように一瞬へにゃりと体の力が抜け、思わず安堵の溜息を零した。
「あー、やっぱ報告書って嫌いだ」
「相変わらずだな、お前は。それより、もう少し綺麗な字で書け。読みにくいったらない」
「それがオレの精一杯だってばよ」
「ったく、お前は……」
ニカリと笑うナルトに綱手が呆れたように溜息を付いた。
「ん〜じゃ、オレ帰るね」
綱手から更なる小言を貰う前に、ナルトは火影執務室を飛び出した。
報告書は出したし、今日はこれから非番だし。夕食にはまだ少し早いけど、一楽でも行くかな。ナルトはそんな事を考えながら足取り軽く廊下を歩いていた。
「ナルト」
不意に背後から掛かった声に、ナルトは思わず笑顔になった。声のする方へと振り向けば、書類のファイルを抱えたサクラが笑顔で立っていた。
「サクラちゃん!」
「これから任務?」
「いんや、今日はもう終わり。今、報告書出して来たトコ。オレってばやっぱ報告書って嫌いだわ。毎回、緊張がハンパねぇの」
「いい加減、慣れなさいよね」
「んー、ムリ」
ナルトは、呆れ顔で笑うサクラを気付かれないようにこっそり見つめた。
窓から差し込む傾きかけた陽の光に照らし出されたサクラは、髪を後ろで一つに結っているのでいつもと少し雰囲気が違う。耳から顎、首筋のラインが綺麗で、思わずドキドキしてしまう。
「あ、ちょっと。そこ、綻んでる」
「へ?んん?どこ?」
「ほらココ、ココ」
「んん〜?」
サクラを見ると左肘を少し持ち上げるようにして、脇の少し下の方を指差していた。ナルトが自分の二の腕を覗き込むように見てみたものの、サクラの示す箇所が分からずに居た。するとサクラがナルトの懐に入り込むようにして近付いた。
「ほら、ココ。あ、こっちもちょっと綻んでるじゃない」
目の前にサクラの顔。
近すぎる距離。
いきなり近付いて来たサクラに、ナルトの心拍数は一気に跳ね上がった。ナルトは赤くなる顔を必死に堪えて、平静を装う事に神経を集中した。
「替え、あるのよね」
「ん、あるよ」
「じゃ、脱いで」
「は?」
いきなりのサクラの申し出に、ナルトはポカンと間抜けな顔をした。
「いきなりなんでしょう……新手のセクハラ?」
「はぁ?!バッカじゃないの?なんでナルトにセクハラしなきゃならないのよ!どうせなら美少年にするわよっ」
「えぇっ、するんだ」
「しないわよ!このバカ!」
「ってぇ!」
ペシリといい音が廊下に響く。ナルトは涙目になって、サクラに叩かれた額を押さえた。
「ほら、直してあげるから、脱いで」
「え、マジで?」
「うん。でも、私まだ任務なの。後で直しておくから、何日か預かっても大丈夫でしょ?」
「全然オッケーだってばよ!」
ナルトはにこやかに言って、素早く上着を脱ぐと、先程確認しそびれた綻びを見てみた。サクラが言った場所に小さな綻びが二つ。任務中に引っ掛けたのかもしれない。脱いだ上着をサクラに手渡す。
「んじゃ、宜しくお願いします」
「ふふ、了解。出来上がったら持って行くね」
ナルトが少し大袈裟に頭を下げると、サクラが小さく笑った。
「サクラちゃん、今度さ、なんかお礼するから」
「ん、楽しみにしてる」
「おぅ!任せてくれってばよ!」
軽く手を振って二人はそれぞれの方向へと歩き出した。
ナルトから忍服を受け取って歩き出したサクラは、忍服を胸元にギュッと抱き締めるように抱えた。
忍服にはまだナルトの温もりがほんのりと残っていて、サクラの手にじんわりとその温かさが伝わってくる。サクラの顔が優しく綻んだ。
数歩進んだナルトが足を止め、ゆっくりと後ろを振り返る。
思いがけずサクラに会えた事、言葉を交わした事、また次に会う約束をした事。一つ一つが嬉しくて、少しずつ離れていくサクラの後姿を愛しそうにしばらく眺めていた。