月の宝物庫
□寝相
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「目が冴えてしまって‥‥なかなか眠れそうにありませぬ。」
「どうした?お前らしくもないぞ。いつもなら‥‥夢すら見ずに熟睡するのにな。」
頼久が夢を見ないのは本当であった。眠りが人一倍深いのであろう。その分、短時間でも充分な睡眠が取れるらしく朝はかなり早起きであった。
「明日に差し障るぞ。あとでいつものように掛け布を直しておいてやるから。」
「‥‥は?」
実久は思いもかけぬ事をさらりと言った。
「お前、幼い頃から寝相が悪いからな。必ず腹を出して寝ているのを、いまだに毎晩私が直しているのだぞ。」
「なっ!!‥‥兄上っ!!」
兄の言葉に頼久は顔から火が出るほど真っ赤になっていた。この年にもなって兄にそのような手間をかけさせていたことが、相当恥ずかしかったらしい。
真っ赤になった頼久をを愉快そうに見ながら実久はさらに言った。
「腹出しは冗談だが‥‥寝相が悪いのは本当だ。いずれ惚れた女人と共寝をするようになったら‥‥あれでは嫌われてしまうぞ。」
「あ‥兄上っ!!!と‥共寝など!!!」
狼狽する頼久を見ながらニヤニヤしていた実久だったが、ますます真っ赤になっていく初心な頼久をさすがに気の毒に思ったのか‥‥。
「あははは!とにかく早く床に入れ。休める時に体を休めなければいい仕事が出来ないぞ。」
そういい残すと実久は部屋を立ち去っていった。