真昼に浮かぶ月

□逆吊られしもの
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「だけど物忌みって退屈だよね〜。あ〜ぁ、お外に出たいなぁ…」

「う〜ん、気持ちは判るけど、万一何かあったら大変だし…僕も付き合うからここでお喋りしようよ」


京に来て四度目の物忌みの午後。

私はたった一つの灯火のみで照らされたほの暗い塗籠の中で詩紋君と話していた。

大きく伸びをする私に詩紋君が慰めるように優しく宥めた。

「だけど今日は朝から雨が降ってるから、行けなくてもまだよかったんじゃないかな?」

「…うぅん」

首を小さく横に振る。

《それだから出たいのに…》

私の心の内の願いは、詩紋君には勿論判るはずもなく…。

反応に戸惑っている詩紋君を余所に私は塗籠の扉に視線を向けた。


《今何処にいるのかな………あの人に……逢いたい…》

「今日はダメだけど、明日からなら、ね?」

どうやら私の態度から『雨が降っても外出したい位、物忌みが嫌い』と詩紋君は考えたみたい。


《そうじゃないけど…まぁいっか》

「だけどお外に行くならやっぱり晴れていた方がいいと思うんだ♪だから…」

詩紋君がニコッと笑う。そして袖のたもとから、ポケットティッシュを取り出した。

「これでてるてる坊主を作ろうよ」

「え……、てるてる坊主?…いいけど…」

詩紋君の突飛な案に今度は私の方が戸惑いながらも、協力して作ることにした。


「できたね〜!なんだか可愛いな」

「そうだね」

小ぶりのてるてる坊主。首周りには現代から持ってきていた輪ゴムと糸が巻かれている。

「早速吊るそうか?…だけどここの軒先でしてもいいのかなぁ?」

「あっ…それなら後で私が何処か大丈夫そうなところに吊しておくから」

「そっかぁ…じゃあ任せるね。早速明日、てるてる坊主が効くといいね」

「…うん」


その後、夕方を迎えて詩紋君は自室へ帰っていった。

塗籠からようやく出れた私は自室に戻ることができた。

庭を見遣ると雨は小降りになるも、まだ続いていて…なんだかホッとした。

巾帳の端に糸を結わえて、そっとてるてる坊主を逆さに吊るす。

「嘘は…言ってないし」

《明日天気に…な〜るな》

願いを込めて暗い空を見上げた。あの人にまた逢う為に…。
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