月の宝物庫

□味覚狩り
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味覚狩り1


京は秋真っ盛り。龍神の神子と八葉たちの働きにより何年ぶりに平和な秋を満喫する人々。鬼や怨霊のおかげでさまざまな災厄を蒙ったが、人とは案外強いもの。踏まれても踏まれても立ち上がるその力強い姿に、生に対する生き物の本能のようなものが感じられる。

米などの農作物の収穫は日照りが続いたせいで今年はあまり見込めないと鷹通は言っていた。しかし京を取り巻く山々には神が与えし自然の恵みがあり、京を流れる幾多の川の魚や近隣の海から京に集まってくる新鮮な魚介類など、人々が生きるための糧はこの時代いくらでも探し出すことが出来た。

そしてここ‥‥食料にはまったく困らないはずの土御門邸でも‥‥食のことについて話題になっているようだった。

とある理由から来年の春まで龍神の計らいで京に居られるようになったあかねと、それに便乗した天真と詩紋、そして彼らと同年輩のイノリが秋の味覚のことで盛り上がっていたのだ。

「やっぱり秋っていえば‥‥食欲の秋!美味しいものいっぱいだよね♪」
「あかね‥‥お前はいつも食い物なんだな。秋って言えば普通スポーツの秋だろ?」
「読書の秋とも言うよね!天真先輩!」
「すぽー‥‥つってなんだ天真?」
「ああ‥‥えーっと‥‥体動かすことって言えばいいかな?」
「ふーん。つまりお前たちの世界では体動かして‥‥たらふく食って書物読んで眠くなって寝るのが秋なんだな?」
「イノリ‥‥なぜそこに『寝る』が入るんだ?」
「おれは書物とか読むと眠くなるんだっ!」
「なんだそりゃ?」

他愛もない話を少年少女たちは語り合い‥‥それをほほえましそうに見守る青年が一人。

「ねえ頼久さん。この京での秋の味覚ってなんですか?」

さりげなく‥‥この実直で慎ましい青年を何とか会話に入れようとする‥‥彼に恋する少女あかね。
普段は一歩下がったところでいつも控えている頼久だが‥‥あかねからのじきじきの言葉に少し照れた顔を何とか押し隠し考えるふりをする。
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