稲妻

□愛の歌を君に
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一度だけ、下校時間ぎりぎりまで豪炎寺と教室に居残っていたことがある。その日は生憎の雨で、サッカーが出来ないとむくれていた俺に豪炎寺がミュージックプレイヤーを差し出したのだ。どうやら誰かが傘を間違えてしまったらしいんだ。もし暇なら雨が止むまで一緒にいてくれないか。形の良い眉が曲げられ、瞳には少しだけ憂いが映されていた。まっすぐな視線が突き刺さる。もちろん、と笑えばほっと息を吐かれた。豪炎寺、ついてないなぁ。傘を忘れてきた自分が言うべきではない言葉が漏れる。仕方ないさ、と口の端を吊り上げて微笑む姿に見惚れた。

「あ、これいいな」
「こういうのが好きなのか」
「うーん、そういうわけじゃないけど、なんかいいなこれ。好きだー」

半分こしたイヤホンからゆったりとしたメロディの曲が流れてくる。透明感のある女性ボーカルが歌うその歌詞はどうやら外国語のようで、俺には何を言っているのかさっぱりだった。でもなんだか、聴いてると不思議と心が安らいできた。なんて意味なんだろうとじっと考え込んでいると、豪炎寺がすっと口を開く。

「大好きな曲を聴こう。君との思い出であるあの曲を、今日も聴こう。」
「え?」
「訳すとそんな意味になる」

愛の歌だ、何でもないように言う豪炎寺に、少し気恥ずかしくなる。俺と同じようにあまり流行に興味のないこいつが、意味もなく音楽を聴こうなんて言うわけないんだ。気障な奴。ばあか、緩む頬を誤魔化すために適当に言葉を投げる。赤くなってるぞ、なんて言われてしまえば負けを認めるしかなかった。

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