文 関ヶ原

□師走
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師走になり三成の周りの時間はひましに加速していく。武人として刃を振るう事も勤めであるが、行事などの取りまとめもまた彼の仕事であった。もたもたしている者をいつもの鋭い視線で睨みつけ、叱咤する。のんびりしている者を怒鳴りつけ動かす。流石に秀吉様の為とはいえ疲れを覚えずにはいられなかった。
「やれ三成よ、流石に顔に疲れの色が見えておるぞ」
大谷がピリピリとしている三成に溜め息混じりに話しかける。
「秀吉様の御為だ。このくらいでへばってなどいられるか。」
ヒヒッと笑う大谷をうるさいぞと睨みつけ再び三成は仕事に向かった。


もうすぐ年が明ける。
はーっと深い溜め息を漏らしながら三成はやっと仕事を終え自室へ帰ろうと歩を進めた…のだが緊張の糸が切れたのと数日ほぼ不眠不休だった事もあり、めまいがして歩が上手く進まない。
しまいには体が崩れていくのを感じた。

いかん…
気力でそれを押しとどめようとするもプツリと意識が切れた。





ここは…どこだ…?
見覚えが…あるが自室ではない。ぼーっとする意識を戻しながら三成が思い至ると、
「あ!気がついたか三成!!大丈夫か!?」
やはりな…
三成は自分が頭に描いた人物の声がしたことで部屋の主を確信した。
「私は倒れたのか?」
「ああ、廊下で壁にもたれてな。でわしがここまで運んだんだ」
声の主、徳川家康が答えた。人が忙しく働いていた時になにをしていたのかと小言の一つも出そうになった一方で、久しぶりに聞く声にどこかほっとする気持ちがわいたのを三成は感じた。

「少し風邪をひいているようだぞ。薬湯を作ったから飲んでくれ」
家康は茶碗に注いだそれを差し出した。三成は珍しく素直にそれを半身を起こし受け取ると一気に飲みほした。
「苦い」
眉間にシワを寄せて感想を言う三成にちょっと苦笑いしながら
「良薬口に苦しだ」
と答えた。

「甘味も寄越せ。」
そういうと三成は家康の唇を指でなぞった。
家康は急な事に理解できない顔をしたがさっすると顔を真っ赤に染める。「もうすぐ年が明けるというのに苦い思いを残して年を越すのはごめんだからな」
そういうと表情を柔らかくして家康の唇に己のそれを落とした。
 

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