文 関ヶ原

□金の葉
1ページ/1ページ

はらりはらり金色の葉が舞い落ちる。青空にそれが流れていくのを見送る。
(この季節は何故だか落ち着かない。)
三成はキャンパスの庭を歩きながらぼんやり思った。





「そこで何をしている」ニコニコといつも笑みを絶やさない男に向かって問う。
「何って…落ち葉を集めて…」
ガサッと棒きれを火のついた落ち葉へ差し込み刺さった物を持ち上げながら
「芋を焼いていた。どうだ三成も食べないか?貴重な南蛮から入ってきた芋だぞ」
と家康がケラケラ笑いながら芋を差し出す。
「………いらん……」
半ば呆れた様に三成は答えた。
「…そうかぁ?旨いのになあ。」
ひゅっ
と冷たい風が吹き込み頭上の銀杏の葉が青空へと舞い上がった。陽光に照らされたそれは黄金の色を帯びる。
(この男の様だ)
三成は目を細めて黄金の葉を見やった。
11月になり寒さが色を濃くなり始めていた。火の近くは暖かい。
とくに用事もなかったので三成は家康と同じように石に腰を下ろした。

ふと…家康が口を開く。「……秀吉公は海外へも戦火を広げるようだな」小田原を平定しほぼ日の本を征服し終えた豊臣軍は世界侵攻を打ち出す算段を始めていた。
「…ああ、秀吉様は強固な日の本を世界に知らしめる。ようやくその一歩目を踏み出そうとしているのだ。」
三成は誇らしげに家康の問いに答える。
「貴様もそれに尽力しろ。秀吉様のもと、私と共に力を奮え」
そして…家康など視線をうつす。
家康は芋の焦げ具合を見ながらのそりと答えた。「…………、三成、お前はお前の為に生きろよ。」
「……貴様…」
三成の眉間にシワが寄る。
「………、わしは…民が平和に戦に怯える事なく暮らせる世が望みだ…」そう言うと家康はふっと柔らかい笑みを作った。
「いえや…」
ゴオッ
三成が呼びかけようと声を上げた瞬間。強い一陣の風が吹いた。頭上の葉が再び舞い上がって輝くそして空の彼方へと飛んでいく。黄金が舞い散る。それを眺める家康の背が逆光の中で輝いた気がした。黄金と共に遠くへ遠くへ消えそうだ。
三成は家康の腕を無意識に掴んだ。そして強く体を抱きしめた。
「三成?」
家康は怪訝な声で聞く。「行くな。」
「…どうした、三成わしはここにいるじゃないか」
「行くな」
三成は腕に力を込める。
「………大丈夫だ。わしはここにいるよ。わしという人間は確かに」
家康は三成の背中に腕をまわした。
「行くな。家康………」三成は自分でも何を言っているのかわからなかった。ただこの腕を放したらこの輝きは二度と自分のもとには帰らない気がした。
家康の肩がほんの少し震えた事にも気づかぬほど彼を抱きしめた。





彼が主君を殺したのは、その3日後氷雨の降る、暗い空の日だった。













「家康ー!!帰るぞ!」政宗が校門の方から呼びかける。
待ってくれと家康はかぶっていたパーカーのフードを取ると駆け出した。今日は部活は休みだ。
「お前なに銀杏の木なんかぼーっとみてたんだ?」
政宗の問いに家康は少し困った表情を浮かべる。「………うーん、わからんが何だかとても胸が苦しくなるんだ。少し涙腺が緩くなったりな」
「hu…n、なんだろうな。デジャヴってやつかもな」

「…かもな…」
家康はヘラリと笑うと青い空を見上げた。空には幾つか黄金が舞っていて一層胸を締め付けた気がした。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ