文 関ヶ原

□落陽
1ページ/3ページ

体が重かった。だるさと痛みで思うように体が動かない。
(わしは…生きているのか?…三成に…切られて…)
「う…」
傷の痛みに家康は小さく呻いた。首を動かすとそこは薄暗い闇の中格子のついた小さな窓から赤く光る月の光が禍々しく差し込む。
関ヶ原で自分は三成と戦い…そして…
「…負けた…」
ぽつりと呟く。確かに三成の刃は家康を切り裂いた。暗い闇に意識が落ちていくのを感じた筈だ。だが…なぜ生きているのだ?月の光ではよく周りが見えない。ただ床にころがされた体は傷の手当てがされ、重傷な拳には包帯が巻かれていた。
いつもの武具は身につけておらず、自分好みの着物を着ていた。
(三成…は?)
家康は混乱した。だるさで動かない体を動かし、意識を集中させる。
カシャ…ン
(?)
足元で音がする。見やれば足輪が付けられ鎖で繋がれていた。ゆとりのある長さだがせいぜいこの暗い部屋を歩ける位だろう。
家康は少し状況を理解した。
(……とらわれた…か)でもなぜ…と考えていれば暗闇の中襖が開いたようだ。炎が部屋を照らす。襖の前には格子がついていて座敷牢であることがわかった。
「……起きたのか…家康……」
ふと感情のない声が格子の向こうから聞こえた。
「……みつ…なり…?」格子の向こうを見やれば自分を殺したと思っていた相手がゆらりと闇の中少しのあかりに照らされ立っていた。
家康は背筋に冷たいものが走るのを感じた。三成の目が、感情を出さないその目が酷く恐ろしかった。
ガチャン
格子の鍵が開き三成が中へ入ってくる。たまらず家康は傷からの熱で上手く動かない体を窓側の壁際へよせ後ずさった。
しばし静寂が2人を包む。家康はその重みに耐えかね口を開いた。
「………、なぜわしを殺さなかった、あんなに首を欲しがっていたではないか…、ここはどこなんだ…わしは…」
「徳川家康は死んだ。みなそう思っている。」
つい…と三成が壁の家康に近づく、家康は壁にさらに体を寄せる。
「影武者を作って首をさらした。東国はわれわれに下った。多くは残滅したがな」三成は家康に手が届く距離に近づき家康の顔を覗きこんだ。
家康は色素の薄い目で覗き込んできた三成を見つめながら言葉をようやく紡いだ。
「………こんな事をする真意がわからん…」
三成を真っ直ぐな陽光のような目で見やる。それは敗残の将の目ではなく、東を背負った大将の目だった。
それを目に映すと三成は家康の髪をいきない掴んだ。
「…っつ」
痛みに声をもらせば口を塞がれる。中に入ってくる三成の舌を抑えようとするが髪の毛を掴まれ顔を固定され上手くいかない。
「……っつ……ん…は」苦しさで声が漏れた。すると何かが喉の方へ入ってきて家康は思わずそれを飲み込んだ。
(………?)
三成は口内を蹂躙すると口を解放した。
「…………っつ三成?」家康は混乱した目を三成に向ける。
「…なぜ殺さないか聞いたな?それは貴様を何度でも殺すためだ」
狂気の色をした目が家康を見据える。
「……な…に…?」
家康は声を絞り出した。三成の指が着物にかかった。ゆっくりと手が胸板をなぞる。
「み…つなり??」
三成の舌が首筋をなぞる。
「………ちょ…みつ…なり……やめ」
押しのけようとするも両腕は傷つき包帯を巻かれていて上手く力が入らない。
「…何度でも貴様の心を壊してやる」
耳元で囁かれる声に体が強張る。
逃げようともがこうとした瞬間心臓が跳ねる。
「……あ…」
思わず声が漏れ、体を抱く。体が熱い…ゆっくりとゆっくりと熱が体を蝕んでいく。
「……さっ…き………、なにを……飲ませ…た?」
必死に三成に問う。三成は耳元へまた口を近づける。息がかかり家康から声が漏れる。
「……媚薬だ」
「…っうあ…っんんっ」耳を軽く三成がかんだ。家康の体が跳ねる。
「な…んで…そんな事を…」
必死に意識を集中させ問う。
「言ったはずだ、何度も貴様を殺すと」
三成はそういうと乾いた笑みを作った。それは恐ろしいほど美しかった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ