文 関ヶ原

□弱い家康
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それは軍議中の事だった。その日は強行に軍を進めようとする三成と、なるべく穏やかにすませたい家康とがお互い一歩も譲らずにいた。
「無駄な血を流さなくても勝てる。何も殲滅することはない。」
「ふざけるな、奴らは秀吉様に弓を引いたのだ。生かしてはおけん」
この話を一刻は繰り返している。さすがに困った周りの将が仲裁に入る。「…まあ、戦は明日ですから逸る気持ちも分かりますが…少し腹に何か入れてからにしましょう」と言い、盆にのった饅頭を出した。
「今日献上されてきたもので、京の老舗のものだとか。お二人とも少し甘味でも食べてからになされ」
と勧める。
「そんな暇があるか!それにどこのだれかもしれんものが持ってきたものなどいらん」
と三成が言うが、
「へぇ〜、旨そうだな。三河にはもうちょっと田舎っぽいのしかないからな」
と家康は手を伸ばすとパクッと食べた。
三成は怒り心頭と言った顔をして、
「……っ貴様ぁどういうつもりだ」
と剣の柄に手をかける。「いいじゃないか。わし少し疲れたしな。食わんのなら三成のも食べるぞ」
と家康は言い盆の饅頭を平らげていく。
三成はそっぽを向き苛々しながら終わるのを待つことにした。がすぐに待ちきれず振り返る………が……
「……い…えや…す?」と家康を見ると三成は固まった。周りの将達も固まっている。
そこにいたのは…ぶかぶかの家康の服を着た12、3歳の子供だった。
「ん?なんだ?わしの顔に何かついてるのか?」子供が不思議そうな顔をしている。家康の家臣が震える声で零す。
「…た、けちよ…様?」
[ん?」
家康は自分の手のひらを見、次いでぶかぶかになった履物に目をやった。
[え??なんだ?履物が大きく…」
[貴様が縮んだのだ!!!」
三成の怒号がとんだ。
[貴様は何を考えている!毒見くらいはさせてから食すものだ。ましてや明日は戦だ、そんななりで何ができるのだ。」
三成はがんがんと家康を責め立てる。家康はあまりの声の大きさに顔をしかめている。
「…三成…大丈夫だ。いつまでも効果が続くとは限らんし、このくらいの背の頃からわしは戦場にいたからな。」
と驚いてはいるが慌てずに家康は答える。
三成はあまりにも落ち着いて見えた家康に苛立ちを隠しきれない。
「貴様は…………」
三成はなぜこんなにも苛立つのかわからなかったが家康を睨んだ。
「……わかった。戦場へ行くならばせめて武器ぐらいは持っていけ、お前は槍を使うのが得意であったろう。本田もいるしな」
よく考えれば戦国最強がいた。と三成は思い至った。
「………、だめだ、忠勝は今、先の戦での故障中で出せない。それにわしは武器は捨てたんだ、槍も始末した。どんな姿になろうともその意思は曲げる気はない」
と黒の多い目を三成へ向けまっすぐに見つめた。その双眸には意思が宿っていた。
なりは子供であっても中身は若き一国の主君の目だった。三成はこの眼差しが苦手だった。豊臣の臣下になりながらも意志のある目は脅威だ。豊臣を脅かす事にもなりかねない、と警鐘をならしつつも、どこかそれに対して嫌いになりきれない己がいることがわかってきたからだ。
「なら戦場で野垂れ死ぬがいい」
とポツリというと、三成は足早に議場を後にした。
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