文 関ヶ原

□光
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人はまるで雨空の続く毎日の中に、心地良い晴天の光を見つけたかのように、彼の傍に集うのだ。

今日も飽きずに一介の将達に混ざりあの男は笑っている。もともと一国の主でありながらその態度にはわけ隔てがなく、食事でさえ共に摂ることが多い。理解しがたい。三成は半兵衛から頼まれ、連れに来た男を遠くに見つけると小さく舌打ちをする。
「……家康…」
小さく男の名前を呟くとそちらへ歩を少し早め近づいた。

「……い…家康様!!」
三成の姿に気がついた家康の家臣の一人が三成に気付かない家康に声をかけた。
「お!光成!!どうした珍しいな、ここへ来るなんて。お前も一緒に食べないか?」
気がついた家康はいつもの明るい大きな声で三成にしゃべりかけると周りの家臣たちは、三成をちらちらと見ながら家康を止めようとおろおろしている。
三成は家康の正面まで近づくと見下ろし
「ふざけるな」
と鋭い視線を送った。
「そういうなよ!この米新米でなかなりうまい…っごふっ…」
家康はむせかえった。三成が家康の服のフードを引っ張ると無理やり引きずったためだ。
「…っつ…むぐっ…げほごほっ…、みつ…なり……」
家康は苦しそうな顔をしながら引きずられていく、家臣が我慢ならんと腰を上げるのを目を白黒させながらも制する。やっと気管に入ってしまったものを何度もむせた咳をしながら落ち着かせると、
「…げほっ…三成、半兵衛殿がお呼びなのだろ。歩けるから運んでくれなくても大丈夫だ」と少し苦しそうに告げる。
「ふん…」
三成が手を放すと、家康は立ち上がり
「軍議なんだろう、言われてたのを忘れてた。すまんな、手数をかけて」
と言った。
「ならば早くしろ」
と三成は言い放つとずんずん歩いて行く、家康はそれを慌てて追いかけた。
その後ろでは家臣達だけではなく、以前は家康を嘲笑していた者までもが心配そうな顔をしていた。

三成はその様子をちらりと見やると眉根をしかめた。
「三成!待ってくれ!!」
家康が追い付く。
「すまなかったな本当に!そんなに怒るなよ。」
家康が困った顔をしながら三成に声をかけてくる。三成はさらに歩を進める。

なぜだか…酷く腹が立っていた。なぜ家康にみな惹かれていくのだ…。侮蔑をしていた者までもあんな顔をする。なぜだ…なぜだ…、
その光に触れるな。
「三成ー!!」
家康が三成に走って追いつき肩に手をかける、が三成はその手を振り払い家康の襟首を掴むと廊下の隣の部屋の畳に叩きつけた。
「っつが…っつ」
畳とはいえいきなり叩きつけられた家康から思わず声が漏れる。三成は家康に馬乗りになると家康の口を自身の口でふさいだ。
「むぐっつ…」
突然の出来事の連続に頭がついていかない家康は眼を白黒させている。そのすきに三成の舌が家康のそれをからめ捕る。家康の背筋がびくっと震える。深く三成が侵入してくる。
状況を理解した家康が三成をひきはがそうとするが細いわりにしなやかな肉を持った体は力強く馬乗りになられた重さもあり、動かない。
口内を蹂躙すると三成は家康の口を解放する。
「…っつ…は…っ…みつ…なり?」
いきなり呼吸を奪われた息苦しさと、背中を撃った衝撃で家康は涙目になりながら声をこぼした。その眼は「なぜだ」と問うていた。
それを見た三成は家康の首根に歯を立てた。
「う…っつ…ぅあ!!」
家康から声が上がると三成はひどく心地が良い気持ちになった。そして歯を立てられ血の滲んだ首筋をぺろりとなめ上げると家康の体が震えまた声が上がった。
「…三成!!三成!どうしたんだ!!やめてくれ………」
その言葉に三成は顔をあげ、家康の顔を覗き込む。家康は息を荒くしながら三成をみつめた。
「お前は私と同じ豊臣の物だ。お前は秀吉様の天下のために戦う事だけを考えていればいい!!他の者を寄せるな、お前があれこれと考える必要はない!!」
そう声を荒げると、三成は家康を解放し
「早くしろ」
と短く言いまた早足で歩いて行く。


そうだ……、お前にほかの事を考える権利も何もない。我らの事だけを考えていればいいのだ。三成はまだ胸のたぎりが止まらないまま、半兵衛の待つ部屋への道を急いだ。
 

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