文 忍び

□多忙
1ページ/1ページ

「佐助さんっていつ眠ってるんだろ」
自軍の兵がそんな事を言っていた。その通りで…佐助は本当にいつ眠っているのか、御館様が倒れられてからの佐助は昼は戦だけではなく、政務も手伝い、夜は忍隊とともに諜報へ出る。ここ10日ばかり気づけば会話という会話自体国のこと以外はしていない。
自分の力なさ故か…幸村は大切な忍びの事を思った。
戦の合間の縁側での会話が懐かしかった。


夜、遅い時間だった。幸村は佐助がいるかもしれないと思い、佐助の部屋に向かった。部屋といってもただ寝るだけのせまいものだ。佐助に以前もう少し良い部屋をと提案したが、必要ないと言われた。
からりと襖を開けると幸村は絶句した。
「…さ…すけ?」
そこにはあたこち擦り切れた迷彩の忍び装束を着たまま昏倒している佐助がいたのだ。
幸村はすぐさま駆け寄り佐助に手をかけようとした。
耳元で鋭い音が空を切る、幸村は紙一重でかわした。それはクナイを握りしめた佐助の腕だった。「……誰だ…」
低い聞いた事のない佐助の声が聞こえた。顔を佐助がこちらへ向ける。
幸村を見るとはっとしてクナイをおさめ、ばっと頭をたれた。
「真田の大将…、申し訳ありません…」
絞り出す様に佐助は言った。
幸村は佐助を見やりながら己の不甲斐なさを呪った。佐助は限界まで俺の足りない部分を埋めようと奔走したのだろう…。いらない部分を捨て遥か昔…俺が出会った頃の感情を捨てた忍びとして…。疲れ果て今はここで少しの眠りを取っていたのだろう。
幸村は心底後悔の表情を出している佐助をぎゅっと抱きしめた…。
「…すまない……ありがとう…佐助…」
幸村は声を絞り出して言った。
ただ悔しかった。御館様がいない国を守りきれるほどの力がない自分が…、愛するものに無理をさせてしまう自分が…、情けなかった。

「だ…んな?」
佐助はしばらく呼ぶことのなかった言葉で幸村を呼んだ。
幸村は腕に力を込めながら言った。
「早く…早く俺は御館様のようになるだから…佐助、俺が天下を平らにしたら……」
佐助は腕の中でじっとその言葉を聞いていた。
「また…あの縁側でゆっくり団子を食べよう…」幸村は目頭が熱くなるのを感じた。
「……早くしてくれよ。旦那、時間外労働増えてるぜ、ま2割増手当てならいいけどさ」
幸村は佐助の顔を見やった。それはいつもの飄々とした、幸村が愛する忍びの顔だった。



「そんな気を使わなくていいよ。」
「異論は認めん、命令だ。寝ろ!」
幸村は布団を敷いてやると佐助に言った。命令とまで言われ流石に佐助も素直に横になる。幸村もその横に転がった。
「安心して深く眠れ、其れがしがいるからな」
と言うと幸村は佐助の髪をなでた。

佐助は意識がだんだん底へ落ちていくのを感じながら思った。

(旦那…、ありがとう。旦那の目指す天下はきっとあったかいんだろうね………)
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ