文 忍び

□Are you ready?
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「それでね、旦那ね実は二駅向こうの学校だったんだよ。大阪には修学旅行できてたんだって!」Ah〜…、勘弁してくれ…。俺は適当に相づちをうちながら目の前の元忍びの話に付き合っている。事のきっかけはこの間の修学旅行、偶然にお互いの最後の地で行きあった真田主従は過去を思い出し、再会をめでたく果たした。学校は違えども相変わらず仲がよく、あの頃の2人を彷彿とさせた。
政宗の胸がチリっと音をたてたのがわかった。

「伊達ちゃん?」
オレンジ色の髪を近寄せ佐助は政宗を見る。そして表情を読みとった。
佐助は少し間をあけると少し真剣な顔になり、
「竜の旦那?」
と呼び方を訂正する。

政宗の鼓動が早くなった。正直、政宗も記憶などなかった。ただ旅行の朝眼帯をつけた時の違和感と佐助や慶次に対して何かいつもと違った感覚を覚えていた。そして大阪で宿敵に会った瞬間に過去の記憶が急に蘇ってきた。その瞬間、政宗は幸村に殴りかかった。死んでなお、目の前の元忍びにここまで想わせる相手に深い嫉妬を覚えた。自分も忍びを愛していた。それはその当時では叶わぬ思いであり、敵である相手に抱いてはならない感情だった。
夏の暑い陣中で真田主従の絶命を聞いた時、政宗は人知れず一筋の涙を流した。母に裏切られ、弟に命を狙われた際にもなかなかった竜が涙を流したのだ。

「竜の旦那なんだろ?」佐助の言葉に政宗は当時の回想から引き戻された。
「ああ…」
短く返事を返す。
「やっぱりそうか…ごめん。俺様そんなに記憶が全部あるわけじゃないんだ。旦那もなんだけどさ…」
実をいうと政宗も記憶が朧な部分は多かった。ただ大阪での事はひどく鮮明だった。
佐助は続けた。
「記憶があると、一国の主様だった相手をちゃん付けで呼ぶなんて変なんだけど…」
佐助は唸りながら言葉を紡ぐ、政宗は静かに言葉を待つことにした。
「なんていうか…、俺様達は過去の続きで生きてるわけじゃない。今は今の生活があるし、学校やあんたと話すのも昔と違って楽しいことの一つなんだ。」
佐助は一気にそこまで言う。そして
「俺様は過去は大切だけど今生きてるこの世界も大事なんだ。だから今までと同じ伊達ちゃんじゃダメかな」
と言い切った。

今生きてる世界も大事か…。政宗は苦笑いをする、よく考えてみれば少し前まで仲の良いクラスメイトで少し気になっていて…そうだった。今作っている世界も過去になんか劣っているわけじゃねぇ。考え過ぎは俺のほうだったのかもな。
平和な世の中に生まれて縛られるものも少なくなっている。

「…っつ、ははははは」
政宗が急に笑い出したのを見て、佐助は驚いた表情を浮かべた。
「…、竜の…」
「あ?竜みたいな男だが俺は政宗だ。それは今のおれじゃねえ、OK?サスケ」
佐助が昔の呼び方をしようとしたのを遮るように政宗はいうと口角を上げた。
「……、伊達ちゃん…」佐助はほっとしたような顔をした。その表情を見ながら、
政宗はオレンジ色の髪をなでた。

「だて…」
呼びかけようとする佐助の声を遮るように頬に口づけを落とした。
「え?あ、え?」
急な行動に佐助はパニックになる。
「おい、話が終わったなら帰るぞ。今日もバイトだろ?遅刻すんぞ!バイク乗ってけ」
と言うと政宗は教室を後にする。パニックを抑えながら佐助は政宗の後を追いかける。


その話のってやろうじゃねーか。今の世界を大事に。

政宗は追ってくる佐助を振り返ると呟いた。

Are you ready?
 

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