文 忍び

□CLOSER
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「何やってんだ?お前は」
思わず政宗の口から間の抜けた声が漏れる。城の縁側に腰掛け、団子をかじっているのは最近同盟を結んだ甲斐の忍だった。
「あら〜、見つかった!俺様お腹すいちゃってさぁ、一服中なのよ」
へらへらと笑いながら答える態度は、一国の主に対してとは思えないほど飄々とした軽いものだ。甲斐と同盟を結んでからこの茜髪の忍びは頻繁に信玄とのやり取りのため出入りをしていたが、いつでもこのようにどこからともなく入ってきてこの縁側にいる事が多い。
「おい、猿!」
と眉間にシワを寄せて近づくと、ピッと目の前に一枚の書状が出された。「武田の大将から伝言です」
そう言った口調は先ほどとは違う、芯の籠もった声だった。
政宗は茜髪の忍びの横に腰を下ろすと書状の中をみた。
「……最上…か?」
「あぁ、軍神からの情報でね…。豊臣と裏で繋がりを作っている可能性があるね。」
庭を見つめながら淡々と忍びは答える。
「ちっ…あの狐が…」
心底嫌そうな顔を政宗が作った。政宗はああいった類の悪賢いタイプが嫌いだ。
「まあ…オレ様がこれから真相を確かめにいくんだけどね」
うーん…、と伸びをして忍びが立ち上がった。
「甲斐・奥州・越後挙げ句、羽州までか…、忍び使い荒いぜ‥。旦那に給料請求しないとね」
くるっと政宗の方を振り向く。その時
「政宗様〜、おられますか?」
と腹心の片倉小十郎の声がした。
「ヤバいな、右目の旦那だ、じゃ竜の旦那!また報告するよ。休憩の事は大将には内緒ね」
と言うと瞬時に姿を消した。さすが真田忍び頭だ。
「猿飛…佐助か」
政宗がぽつりと呟いた。政宗は忍びが嫌いだ、任務のためならどんな手だって使う。佐助も同じなのだろう…、飄々と人なつこいがどこか一線をひくような節がある。
しかし政宗が忍びの名前をおぼえたのは初めてだった。自分ではないが主の為に働く姿は嫌いではなかった。今日隣に腰を掛けた時気づいたが、迷彩の装束は少しほつれていた。かなり無理をしているのだろう…という事が伺えた。そこには信念のようなものがあるように思えた。
(休んでいたのは本当だろう…。悪いことをしたな)
政宗は団子を食べていた佐助の事を思い出していた。声をかけなければもう少し羽を休められたのだろうか…。自分の城を佐助が止まり木に使っていた事が少し腹立たしくもよく自分自身理解できない部分が多いが少し嬉しい気もた。
「政宗様!」
1人考えていると小十郎が縁側にやってきた。

「忍びが城に入ったと知らせが…」
と小十郎がいいかけると「AH?もう出てった。城の警備があめーなぁ」
と政宗が言った。小十郎は申し訳ありませぬと頭をさげた。
「おい、小十郎。猿が最上に諜報に出た。何か近々動くかもしれないな」
というと縁側を後にした。なぜだか茜色の髪の忍びの事がちらちら頭をかすめた。
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