お題
□雨
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オレは雨が嫌いだ。急に降る雨も、しつこい雨も。
「智く〜ん。おはよっ」
また来た。絡み辛いやつが。
コイツの名前は卯木嶋雨。雨はなぜかオレに懐いている。
「無視しないでよ〜、智君」
雨に話しかけられたが基本無視だ。だが雨はオレの横に来て名前を呼ぶ。
「…朝からうるさい。なんだよ」
「おはよ、智君」
オレが口を開くと雨は嬉しそうに笑った。オレは不覚にもドキッとしてしまい目をそらした。
「…はよ」
「朝から元気ないよ?それにそんな顔してたらモテないよ」
「うるせぇ。この顔は元からだ。別にモテなくていいよ」
昔からオレは少し周りから怖がられることが良くある。周り曰わく目つきが怖いそうだ。
だから友だちもいない。寄ってくるのは喧嘩が強いやつだけ。不良と貼られたレッテルは剥がせない。でも、雨だけは違った。
オレが不良だと周りから言われても雨だけは普通に接してくれた。
少し鬱陶しいと感じてしまうのが現実だ。
「…雨が降るから」
ボソッと呟いたはずなのに聞こえたらしく
「まだ雨、嫌い?」
「……」
雨の日は嫌なことを思い出す。昔、母親に棄てられたときのことを…
「…じゃぁ僕のことも嫌い?」
雨が悲しそうな声を出すからつい
「…お前は嫌いじゃない」
なんてウソをついた。でも半分ウソではない。
「良かった。智君に嫌われちゃったらどうしようかと思った」
そう笑う雨は少し寂しそうだった。
「つぅかお前、オレに嫌われても関係ないんじゃね?」
友だち多いんだし。
「智君じゃなきゃ意味ないの」
「…なんだ、それ」
「気にしなくていいから」
雨は苦笑いした。
その日の放課後、雨が酷くなって雷まで鳴りそうになった。
「…雨、止まないね」
雨は空を見上げて言った。
「……あぁ」
帰り道、オレ達の間に会話はなかった。雨は何故か小さくなってるしオレはオレでほんのちょっとビビっていた。
「あ、卯木嶋君。今帰り?ちょっと話があるんだけど」
知らない女子が雨に話しかけてきた。
「…え?」
雨はオレを見上げてきたのでオレは知らん顔をしてそのまま帰った。雨を置いて
彼女はきっと雨が好きなんだろう。雨が好きで告白するつもりだろう。
そう思うとなんだか胸の奥にチクッとした痛みが走った。
「…んだ、これ」
オレは胸を押さえながら家路を急いだ。止みそうにない雨は段々、強くなる一方で雷も鳴りそうだ。
オレは情けない話、雷が苦手だ。昔から雷が怖くて雷が鳴るとギャーギャー泣いていたのを思い出す。
「…い、今…なっ…た…?」
雷が遠くの方で鳴っていたのに次第に音が大きくなって近づいてくる。近くのちょうど誰もいないボロボロの空き家に入って雷が止むのを待っていた。
目を瞑って俯いているとふいに手を掴まれた。びっくりして顔を上げると雨が心配そうな顔で見ていた。
「…あ…め……?」
「智君大丈夫?」
「はぁ?何言ってんだよ。大丈夫に決まってるだろ」
オレは気丈に振る舞ったが雨は
「ウソつかなくていいよ。泣いてるじゃない」
オレの頬の雫を拭いた。
「…あ……」
「智君、大丈夫だよ。僕がいるから」
そう言って手を握ってくれた。
「…なぁ、雨。オレ情けないよな。雷が怖いなんて」
「誰にでも怖いものくらいあるよ」
雨はいつもオレの話を笑わないで聞いてくれる。そうしていつもオレの傍にいてくれる。
「…お前の手、あったけえな」
今まで人の温もりに触れたことがなかった。
「智君かわいい」
「…どこが」
「かわいいよ、智君は」
「…うっせ」
オレは雨が苦手だ。急に降る雨も、雨が連れてくる雷も。でもしつこい雨は苦手じゃない。