Gift
□Lucky or Unlucky
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シンと静まり返った空間にズラッと本棚が並ぶ古ぼけた見慣れた風景になんだかホッとする。
本を読むのはそれほど好きってわけじゃない。
図書館に来たとしても殆ど本を手にとることすらない。
じゃあなんで行くかって私は本の匂いが好きだから。まぁそれだけのこと。
それを友達に言うと笑われてそれって別に本屋でもよくない?って言われる。
でも私は新品が並ぶ本の匂いよりちょっとカビ臭いくらいの古い本の匂いの方が好き。
図書館でなくても古本屋でも同じ匂いはかげるけれど
古本屋ではできないことがある。
私はこの匂いに包まれて窓際にある椅子に座ってうたた寝をする事が好きだった。
だから私は今日みたいにたまにふらっと図書館に訪れる。
今の季節なんかは日差しが背中に当たってぽかぽかして凄く気持ちがいい。
いつものように、窓際の席に向かう。
けれど、いつも私が座る席は既に先約がいたのだった。
私の指定の席には茶色い髪の色白な女の子が腕に顔を乗せて眠っていた。
髪がかかっている横顔をちらっと見るとどこかで見た顔のような気がする。
まぁそんなわけないかって思って、その席どいてなんて言う権利は私にはないから仕方なく別の席に座る。
あまり日の当たらない席だったからいつもの席に比べると寝心地はいまいち。
だからといって腹を立てるほど子供でもない。
公共の場所で自分の席なんてものは初めからないのだから。
しかし、さっき寝ていた女の子の事が少し気になる。
髪が顔に掛かっていてハッキリとは解らないけれど、一個上の原田楓(はらだかえで)先輩に似てたような気がする。
もし本人なら帰った方がいいかもしれない。
原田先輩と言ったら不良の先頭を切っているような恐い先輩。
噂では綺麗な顔立ちで優しそうに見えるんだけど、後輩には凄く厳しくて、ひと睨みされるだけで固まってしまうほど恐い先輩だと聞く。
私もちらっとだけど学校で見かけた事がある。噂通りの綺麗な顔立ちで優しそうだった。
けど、悪い噂というのは火がないとこには煙はたたないと言う通り私が目撃した場面は後輩をシメる原田先輩の恐い噂そのものだったわけで。
話した事なんて一度だってないけど、あの瞬間から私の中で出来れば関わりたくない先輩第一位に確定された。
そんな先輩が図書館なんかにいるとは思わないけど
図書館だから誰がいてもおかしくはない。
嫌な予感がしなくもないけど、こういう嫌な予感っていうのは私の場合あまり当たることはないのだからと
深く考えずテーブルに顔を伏せた。
うとうとと意識が朦朧とし始めていた時のこと。
背後に人の気配を感じるような気がする。
けれど、ここは図書館だから人が出入りするのは当たり前で私の後ろを誰かが通ったりしても不思議じゃない。
だから、どうせ通行人だろうと別に気にせず私はそのままの姿勢でまた寝直そうとする。
でも、誰かが私の右肩を突然叩いてきた。
私の睡眠を邪魔すんのは誰だよって思いながら私は不機嫌になりつつ黙って肩を叩いた人物の方へと重たい頭を持ち上げて若干しかめっ面で振り向いた。
振り向いた先には茶色いまっすぐなストレートの髪細めな眉をひそめる綺麗な女子が立っている。
「は、はらだせん…!?」
そうあの原田先輩が立っていた。
私は驚きのあまり飛び起きてここが図書館だということも忘れ、大きな声で名前を呼ぼうとした途中で先輩から口を手で塞がれた。
先輩は無言のまま私と目を逸らさず、親指を出口の方へと向けて出ろって合図する。
私のあまり当たる事のなかった嫌な予感というのは今回見事に的中していたようだ。
今更後悔しても遅いけど、なんでもう少し注意しなかったんだ。
外に出る間も先輩の後ろを歩きながら
私、何かしちゃったのか?
睨まれるような事をしてしまったの?って思うけど、思い当たる節が思い当たらない。
自分で言うのもなんだけど、割と真面目に学校生活送ってきたし、先輩にもちゃんと挨拶だってして礼儀だって欠いた事ないって思う。
けど、どうして先輩が私の前にいるわけ!?
今まで、そんな先輩に目をつけられる事なんて一度だってなかったのに、私の平和だった高校生活はここで終わってしまうのか…