Free*Fly
□2nd 困惑また困惑
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……えーっと。
改札でて右にコンビニがあるから。
うん、こっちであってるはず。
的確な目印が書かれた地図は、迷う必要がないほどわかりやすくて。
わたしは確実にあるマンションへと向かっていた。
そのマンションというのは現在雪さんが暮らしているマンションであり、そして今日からわたしの家になるマンションでもある……らしい。
正直、まだ実感が湧かないというか、いまいち信じられないというか。
だって雪さんと再会したのが約19時間前で、雪さんちにお世話になることが決まった(決められた)のが約15時間前。
つまりすべては昨日決まり今日実行された。
何もすぐ引っ越さなくてもいいのに。
せめて来週の土日とか。
百歩譲っても明日の日曜日とか。
いや、むしろ同居の件からつっこみたいことは山積みなんだけど。
そんなわたしのごくごくまっとうな意見は言う暇さえ与えられず。
今、土曜日の午後2時ちょっと前。
わたしは服とか学校の教科書とか、とにかくすぐ使う物だけをぱんぱんに詰め込んだボストンを左肩にかけ、雪さんに書いてもらった地図を右手に見慣れない住宅街を歩くはめになった。
……それでも。
そう悪いことばかりでもない、というのも本当はわかってる。
昨日はともかく、さすがに今は落ち着いてるから。
おそらく昨日、わたしが頼みこんだところで、母は一人暮らしを許してはくれなかったと思う。
そうなれば転校、離島暮らしは避けられない。
だから雪さんちに置いてもらえるなら、そんなありがたいことはない。
実際、落ち着いて事を進めてもらってさえいれば、わたしはわくわくドキドキしながら引っ越しを迎えていたかもしれない。
だって雪さんは昔からわたしの憧れだったのだから。
それは今だって変わらなくて。
わたしよりずっと大人で、ずっと魅力的な女の人。
ちょっと強引だったけど、わざわざ自分からわたしを引き取ってくれるくらい優しい人。
…せめて迷惑かけないように頑張らなきゃ。
そう気を取り直したわたしは、さっきより少し軽く感じるボストンを抱えて足を進めた。