NOVEL

□紫蘭
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お題"紫蘭"






 きっと人々は忘れる。

 風の前の砂の如く少しずつ人々の心から消えてゆき、二度と思い出される事はないのだと、彼は何でもない事のように語った。
 でも、その背はどことなく寂しそうに見えて、見間違いではない。きっと彼の本当。

 紫蘭の花が咲く。
 日輪の光が暖かい心地好い風の吹く春の出来事だった。


 誰もいない縁側で2人だけでいる時、たまに…だが元就はそうやって本心を見せる。
 無自覚なのか、俺がこの時代の人間じゃないからなのかはわからないが、それが嬉しい。




 紫 蘭






 俺は知ってる。先の時代から来た俺だから知ってる。
 毛利家が長い徳川の時代を耐え抜く事。やがては徳川の幕府を倒し、新たな時代の礎を築く事。
そこへたどり着く300年余りの間、毛利家の人々の心には常に『毛利元就』の名があった事を。
 その先の俺の生まれた時代でだって、元就の名は有名なんだ。
 忘れられてなんかいないよ。


 ついでに言うなら長曾我部。
 元就がこんな事を言い出したのは、あの男が原因だろ?
 あの男の名こそ、この時代に来るまで知らなかった。四国といえば山内。それがメジャーな答えだ。

 長曾我部元親!海賊なんかして国政を蔑ろにしているくせに元就には正義面して自分の正論を一方的に押し付けてくる男!
 跡継ぎ問題で迷走して次世代で家を滅亡させるくせに偉そうな事を言いやがって!元就の事をグダグダ言う暇があるなら海賊なんて止めてだな……
 ……まぁ長曾我部なんてどうでもいいよな。今度殴ればいい。

 とにかく!元就が中国を、毛利家を守り続けている限り忘れられる事なんて絶対にないんだ。少なくとも後世に名を残すことは間違いない。
 それに…世界中の誰もが元就を忘れても、俺が覚えてる。
 俺がずっと、ずーっと一緒にいて元就の事を覚えておくって約束する。



 だからさ、元就。笑ってよ、ね?



「相変わらず真っすぐにしか走れぬ男だな。」

 顔を見れば呆れ顔。熱く語りすぎて握った手は汗で滑る。

「うん。知ってる」

 抱きしめて、その感触を、熱を覚える。

「だからさ、元就。笑って」




END



男主は元就命です。元親を目の敵にしてます。

主催きみに贈る花詞。
ありがとうございました


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