二次創作文
□残蜻
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そんなの見ないで。
僕を見てよ。
【どうしてもきみを殺したいから素直に殺されてください】
「まぁた見てたの?」
「‥何のことだ、私は何も見てなどいないぞ」
嘘。
秘かに辿った視線の先には、彼の許婚とかつての幼馴染みの姿。
両家が勝手に決めたことで何の感情も無い。
そう話していたが、気付けば彼女を目で追っていたのを僕は知っている。
何の感情も無い と言うのなら、彼女の何に彼は固執しているのだろうか。
今迄目を向けてすらいなかったものが、手に入らないと分かると途端に欲しくなる。
そんな心理のもとで意地になっているのか。
「もう、さ。やめたら?そういうの」
「何‥?」
曖昧な問いに一瞬きょとんとした表情を見せたが、口角を吊り上げすぐにいつもの余裕ある笑みになった。
この人は、どんな想いでいるのだろう。
どんな想いであの二人を視ているのだろう。
視ようと思えば視ることが出来るのだろうが、何故か怖くて、そして視てはいけない気がしてその中を覗けずにいた。
「…ねぇ、蜻たん」
──ぎ、
窓際にいる彼の元へと歩み寄る。
──ぎし。
床が軋む音がした。
軋み、悲鳴をあげているのは僕の心かもしれない。
君は知っていた?
知らないでしょう?
あの二人を目で追うその姿に、恋い焦がれていた人がいたことを。
「残夏?」
昔から、さ。上手に隠してきたんだけど。
ごめんね、もう無理。
「いい加減気付いてよ」
捕まえた窓際。
窓の外には夜に侵食されている橙色の夕空。
差し込む夕日が逆光となり、腕の中にいる彼の表情がよく見えない。
「残夏、」
限界だ。
「好きだよ、蜻たん」
仮面の奥の瞳と。視線が一つに繋がったのがはっきりと分かった。
「‥何の感情も無いと、言った筈だ」
ではその感情は何処にあったと思う?
抱き締めた腕に力がこもる。
あぁ、この瞬間を、ずっと待ち望んでいたのだ。
end.
【後書き】
実は両想いだった的な話が書きたかった。
心配事の七割は取り越し苦労だっていうのをテレビで見たので‥
蜻蛉様、何やかんや言いつつ色恋沙汰に疎かったら良いなぁ。俺得…