二次創作文

□双蝶
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僕は、言葉なんて知らなかった。


それは

表面だけの付き合いには、都合のいい言葉だけで十分だったからだ。

角の立たないそれは、何もかもを円滑に。平和に物事を進めるのに都合が良かった。

‥だって、それが一番良いと思い込んでいたんだから。


「好きです」

思った事とは違う事を話すのが一番、良い事だったんだ。

「好きです、凜々蝶様」

それなのに君は、今迄僕のしてきた事と正反対の事ばかりして。


「‥嫌い。君なんて、嫌いだ」

どうして、そうなんだ。
嫌がらせ? だったら余計タチが悪い。

僕の それ を崩して楽しい?


「凜々蝶様が思っている事と違う言葉を発してしまう事を、私はよく知っているつもりです」

それは、
君にとっての“都合のいい言葉”?

そんな言葉で僕との関係がうまくいくとでも思っているの?


「嘘」

どうして、

「嘘なんて言いません。‥それに、
私は貴方以上に貴方の事を分かっています」

どうして、そんな事を言うの。


「凜々蝶様の、本心からの言葉を聞かせていただけませんか」


‥“都合の良い言葉”で出来た関係は“都合の良い関係”で、
浅い、表面上の関係には最初から何も無かった。

いくらでも作る事の出来る関係に、中身なんて無かったんだ。


「嫌い。嫌い。君なんて嫌い」


‥そんな事、とっくの昔に知っていた。

けれど、それしか方法が分からなかったから。

だから、これが一番良い事だと思い込む様にして今迄そうしてきたんだ。

どうしてそれが目の前の君には通じないの?


「凜々蝶様、」

大体、他人に自分の弱みを見せるなんて有り得ないんだ。

‥そうだろう?


「そんな顔をしないで下さい‥」

そう言って重ねられた手が温かくて、

何かが崩れていくのと
何かが溢れていくのが。自分でも分かった。


僕は、言葉なんて知らなくて。

急に言われてすぐに変えられる程、器用でもない。


『私は貴方以上に貴方の事を分かってる』


誰も知らなかった 僕 を、受け入れるというの。


ぼやけて揺れる視界から零れたのは、きっと。


今迄の間違った自分。




end.


────────

弱みなんて思わずに素直に話してください、という話。

個人的に戯言スピーカーってこんなイメージだなぁと思ってます
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