二次創作文

□双蝶
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ではそろそろ自室へ戻りますね、と言って僕の隣に座っていた彼が名残惜しそうにゆっくりと立ち上がる。
──明日は早いし、僕はもう寝ることにしよう。
おやすみ、という言葉とは裏腹に自分の右手は彼のシャツの裾を掴んでいて。

「‥凜々蝶様?」

背を向けて歩き出そうとした彼のシャツがぴん、と張る。
歩みを止められた彼が少し驚いた様に振り返るといつもの表情で問うた。

「え、あ…これは‥その、」

びっくりしたのは僕も一緒で。
みるみる内に熱を帯び、一気に頬が紅潮してくるのが分かった。
無意識にシャツを掴んでしまった右手を慌てて離し、違うんだ、何でもないと取り繕う。

隣へ座りなおした彼の大きな手が僕の手を包み込む。
まだ冷めない熱と赤みを帯びたままの顔を見られるのが恥ずかしくて、それを悟られまいと包み込まれた両手を見つめながら俯いた。

「み、御狐神君…」
「はい? 何でしょう」

僕へ向けられる視線を感じながら、聞えるか聞こえないかという小さな声で愛しい名前を呼ぶ。
続いて当たり前の様に、それに応えようとする声が返ってくる。

「‥そ、その…」

もう少し一緒にいてくれないか

大きな手に一層の力がこもる。

「はい、凜々蝶様がお望みならばいつまでも」

刹那、身体中が温かさで包まれる。

徐々にしみ込んでくるその体温に、精一杯背中へまわした腕の中に安堵感を覚えながら僕は静かに目を閉じた。




end.


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