台詞なし小説
□荒廃
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【荒廃】
その場所には何も残ってはいない。
遺された大地に広がるモノ。
大地を錆びさせるかのように遺った朱。
鮮やかな色とは裏腹に、その世界は残酷で。
何故、争う必要があったのだろうか?
何故、関係のなかった者まで巻き込まれなければならなかったのだろうか?
…ただ、その国にいた。
それだけの理由で。
赤い大地の砂を一掴み。
さらさらと指の隙間から風に流されては大地へと還る、その砂は大地に同化し。
…染まった朱が、洗い流されていく。
どれだけの数…幾人の色を染めたのだろうか。
手を放せば、解放された砂は元の純粋さを取り戻す。
忘れ去られる命たち。
証を遺さず大地から消えて逝く朱。
せめて、覚えていることが、唯一出来る事。
忘れない。
例え世界が忘れ去ったとしても。
たった一人でも。
カタチはなくなっても。
ココロに残せば、証は遺る。
…見えないカタチで。
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