台詞なし小説

□静寂
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【静寂】


満身創痍の状態。

着の身のままで、静かにその水面に足を挿し込んだ。
その冷たさは、まるですべての熱を奪うかのように。

―ちゃぷ。

腰まで浸かるほどにまで入り込んでから、三つ編みの髪を解く。
自然に解けた髪は、水を吸い込んでその重みを増していく。

更に数歩進めば、水の冷たさと水圧に、小さな傷がちくちくと身体に警告を始める。
しかし、そんなことは一切お構いなしに、歩を進める。
上腕から流れ出る血液が、水面に流れ、静かな赫い線を刻む。
その血液が流れる傷まで水に浸かれば、その痛みに顔をしかめる。それでも、水から出ることはなかった。

小さな傷は、その水圧によって出血が止められ、流れ出ることはない。
しかし、水圧でも止めることの出来ない深い傷が、水の中へと流れていく。

その広い空間に、薄く広がる別の色。

どれだけの時間、そうしていたのか。
立ち続けていた身体が、力なく水に沈んだ。

ほんの僅かな時間差で浮かび上がる身体から流れ出る血液は止まる事が無く。
仰向けに浮かんだその身体からどんどん血の気を奪っていく。

…僅かに、瞳を開けた。
暗い天井を見つめるその蒼い瞳は、何処も見てはいない。
やがて、その瞳は静かに閉じられ…

…静寂が、空間を支配した。




《この作品は、「ほがぽかの祭り」にも掲載しています》

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