3Z置き場

□全国大会-さらば碧き面影-
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「ああ、任せとけ」

「コイツ暫く何も考えずに無茶しまくってたんで怒りの鉄槌をぶつけといてくだせェ」

「お前の変わりにぶつけといてやる」

「じゃあ俺らは戻ります」

「おう、お前等も無茶すんなよ〜」



銀八の声を背に受け野球部員達はグランドへ戻って行った。
残された銀八は土方を担ぐと保健室へ向かう。
保健室は夏休みの為保健医は居らず静まり返っていた。
クーラーを真っ先につけると担いだ土方をベッドの上に寝かせユニフォームを脱がしてアンダーの状態にする。
そして彼の上がった体温を下げる為氷嚢に氷と水を入れるべく保健室から出て行く。



「土方コレで早く目ェ醒ませよ」





と氷と水を入れた氷嚢を持って走って行く彼の頭の中には土方の事しか無かった。
この時既に銀八は土方の事を生徒以上に見ていたのかもしれない。














「………ん」



顔にかかる涼しい風が気持ち良くて目を醒ます。
ぼんやりと辺りの景色を見つめると保健室だと言うことに気付く。


「俺グランドで投球の練習して無かったっけ」


銀八に手を抜くなと言われて以来土方は以前にも増して何事にも手を抜く事をしていなかった。
部活動は勿論勉強もだ。
その中でも特に部活動は手を抜かなかった。

投げ込みも1日に何百とこなした。
走り込みも同様に何十本もこなした。
今日も土方は何時もの様に投げ込みをしていた。
だが何時もと違って頭痛がずっと続いていた。
息も直ぐに切れ汗は大量にかき様子がおかしかったのは確かだ。
それは自分自身でも分かった。
それでも体を休めなかったのは休む時間が惜しかったからだ。
土方は、野球を始めてから今まで一度たりとも己の力が凄いとは……己の力でチームが勝ったのだとは思っていなかった。
勝てるのは周りのお陰。
相手を三振に出来るのは捕手である近藤のお陰だと思っていた。
口では強気な言葉ばかりで己に自信がある様な事を言っても実際は自信なんてこれっぽっちもありやしない。




だからこそ少しでも自信を持てるくらいには力をつけたかった。
銀八に認めて貰える程の技術と自信が土方は欲しかったのだ。
それなのに練習中に意識を飛ばして倒れこうして誰かに介抱されている。
そんな己が酷く滑稽だと思った。





「ははっ……俺ってマジだせェな」



口にすればじんわりと涙が浮かび腕を額に当てて静かに涙を零す。
すると扉が粋なり開き誰かが入って来た。
流石に人に涙を見せるのは土方のプライドが許さずすぐさま涙を拭った。




「あれ?土方目ェさましたんだ」



この時程己のプライドの高さを誇りに思った事など土方は無かった。
ほんの少しでも涙を拭うのが遅れていたのなら想い人に見られてまた子供扱いされたに決まっているのだから。




「ほら、氷嚢」



土方の頬に氷嚢が当てられる。


「気持ちいいか?」


銀八の問いに静かに頷く。
頬に当てられた氷嚢は次には額へと当てられる。
氷嚢の冷たさがとても心地よくて目を細める。



「少しは落ち着いたかよ?」

「まあ、少しは」

「お前無茶してたんだって?」

「………無茶なんかしてねェ」

「言っておくけど無茶と全力投球とは違うからな」
  
「………」
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