3Z置き場
□全国大会-さらば碧き面影-
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彼もまた土方同様に野球の推薦で銀魂高校へ通っている3Zの生徒の一人だ。
近藤は土方と違って学力の成績は悪いが性格が良くて人望の厚い生徒だ。
「ファウルッ!!」
審判の声が3Zの教室にまで響いてくる。
しっかりとバットに当たっていればホームランとなったであろう一投。
近藤の実力も一年生投手の実力も伺えた。
「近藤さん!!シッカリ球見ればホームランいけるぜ!!」
近藤を気遣う土方の一言。
それは相手投手の負けん気を逆立てる一言でもあった。
案の定土方の一言に苛立ったのか投手から投げられる次の球は速かった。
その証拠にキャッチャーのミットにおさまる音は半端無く良い音だ。
「ストライクッ!!」
今のはストライクだったようで次の投球がストライクなら近藤はアウトになる。
だが、近藤は投手の速い次の球を打ち見事にホームランを決めた。
三塁に居た土方がホームインし近藤がホームインの11点だ。
【ナイスバッティング!!】
味方からは一斉に近藤へ掛け声がとぶ。
そして土方が一緒に声をかけているのも分かった。
「無愛想なアイツがあんな表情もするんだな」
近藤に声掛けしている土方の表情は年相応……嫌、年よりも若く見える笑顔をしていた。
教室に居る土方は決してそんな表情を見せるような生徒では無く銀八は意外な一面を見れたと思った。
そんな銀八に気付いたのかグランドに居る土方が3Zの教室に向かって満面の笑顔でピースサインを決める。
「……アイツ気づいてたのかよ」
土方に自分がゲームを見ていた事を気付かれていたという事実に何だか無性に恥ずかしい気がする銀八なのだった。
あの日から【野球って面白い】と野球の面白さに魅せられて銀八は野球部の練習を毎日見るようになっていた。
今日も何時もの様に放課後に教室で練習風景を見ていた。
土方は勿論銀八があの試合を偶然見ていた日から彼が見ている事を知っていた。
だからこそ正式な試合を彼に見てもらいたいと思っていた。
「来週の日曜から地区予選が始まる」
「で?」
「俺らの試合は4試合目だ」
「俺に観に行けと?」
「いや来なくていい」
「…そう」
一番近い所で見ててくれと言うくらいの土方だからてっきり見に来いと言われるかと思っていた銀八は拍子抜けした。
「初戦なんて楽勝に勝てるからな・・・だからわざわざ観に来なくていい」
「まぁ、すげぇ自信だこと」
「だから、準決勝くらいになったら観に来てくれ」
「嫌々、別に観に行くなんて一言も言ってないんだけど」
土方と言う男は断っても返事を保留にしていてもトントン拍子に話を進める男だ。
「アンタさ野球嫌いじゃねェだろ?」
「前から思ったんだけど俺一応先生なんだけど……アンタってお前何様だコノヤロー」
「おいはぐらかすな…嫌いじゃねーんだろ?野球」
確かに見ていてルールが分からない訳では無いから嫌いでは無い。
寧ろ彼らの練習試合も見てからは面白いと思ってっていて何時の間にか感情移入してしまったくらいには好きだ。
そんな銀八の思いを土方分はかっているのか言葉を続ける。
「俺は先生が俺らの対抗戦を教室から見てたのを知ってる……近藤さんがホームラン打った時とか良い表情してた」
土方はあの試合中に自分が試合を見ている事にやはり気付いていたのだなと銀八は思った。
彼が銀八に気付いたのは偶々教室をチラッと見た時の事。
最初は無表情で見ていた銀八だったが近藤が打席で投手とやりとりをしている内に見て居る彼の表情は変わっていた。
近藤がホームランを打って自分達がホームインした時には最初の無表情さは完璧に無くなっていた。
銀八はこの時土方が無邪気に笑う奴だと思ったが土方も同じ事を思っていたのだ。
「何でお前は俺見てんだよ。試合に集中しろ集中」
「アレぐらいの大差なら集中してなくても余裕だっつーの」
己の技術に大層な自信があるのか彼の言葉は常に強気だ。
「俺は練習試合だろうが地区予選初戦だろうが手を抜く奴ァ嫌ェだ」
「だったら手を抜かなければ好きなのかよ?」
「まあな、俺は何事にも全力投球出来る奴の方が良いな」
「………分かった。俺はコレからの試合全部100%の力を出し切る」
「ああ出してこい。そうしたら試合観に行くのも考えてやるよ」
「マジデカ!?」
「その変わり文武両道だからな。成績も落とすんじゃねェ」
そう言われた土方は銀八の言葉に元気良く返事をして教室から出て行った。