novel


□ご主人さまとお風呂
1ページ/4ページ


「ああ、美樹君、ちょうどよかった。」

みんなが寝静まった夜中。

仕事を終え、廊下を歩いていた私は、

愁一郎様に呼び止められた。

「これから風呂なんだ。一緒に入らないか?」

「…え?」

ああ、そうか、背中を流してほしいということか。

あと、髪の毛を洗えばいいのかな。

愁一郎様のきんきらきんの長い髪を洗うのは、気持ちよさそうだ。

前々から思っていたけど、愁一郎様の髪の毛は遠くから見ても、

光が反射していて、すごくきれいな金髪だった。

私の真っ黒い髪の毛とは大違いだ。

「はい、わかりました。」

一瞬愁一郎様はびっくりした顔をされたが、

すぐにいつもの表情に戻って、

「じゃあ、行こうか」

と言いながら浴室に移動した。




私は服を着たまま、先にシャンプーの用意をしようとする。

人の髪の毛を洗ったことはないけど、

自分の髪を洗うのと同じやり方で大丈夫だろう。

町にある美容院に一度だけ行ったことがあるから、

そこでの手順を思い出しながら洗えば、問題ないだろう。

すると、愁一郎様が不思議そうな顔をして、

「何しているんだい。美樹君も一緒に入るんだよ?」

…。

!?

「え!?え!?ええええええ!?」

「ほらこれ脱いで。」

かしっと私の上着に愁一郎様は手を掛ける。

「ちょっ、ま、まっ待ってください!無理です!」

「君は本当に、鈍いねえ…」

とんっと、壁に押しやられて、私の進路を塞ぐように

愁一郎様は両手を壁に当てる。

私は身動きができなくなってしまい、

愁一郎様と目が合う。

ど、どうしよう…。

「もう少し警戒心を持った方がいいと思うけどね。」

「う、う、」

「君が承諾した時、期待したんだけどな。」

「だ、だっ、だって、背中を洗う仕事だと思ったからっ…」

「そんなわけあるか。

俺はいつでも聖人というわけではないんだよ。」

愁一郎様は私の顔をじっと顔を見つめてくる。

真剣な眼差しで。

そこにはいつもの穏やかな表情はない。

「君は俺じゃ、駄目?」

駄目?

何が駄目なんだろう。

愁一郎様は決して駄目な方ではない。

むしろ優秀な方だ。

自分を否定するようなことはあまり言わない方なのに。

「そ、そんなこと、ありません!」

「だったら、いいよね?」

いい?

何がいいんだろう。

がしっと、愁一郎様の手が、私の肩に触れる。

違う。

いつもの愁一郎様ではない。

怖い。

そう感じた私は、かたかた震えながら、

ぽろぽろと涙を流していた。

「…ごめん。ふざけすぎた。」

そう言って愁一郎様は私に下がってよいと命じた。

私は一人浴室を後にした。

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ