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□未定
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1日目
真田幸村の場合
女中が起き出すのと同時に起床し、(何故か)旦那の朝餉の支度をするのがここ十年程の日課になった。
何故俺様がこんな事をと思った事は一度や二度の話では無いが、既に諦めがついている。
いやー…俺様成長したよね、なんて自画自賛しつつ、いつもの如く寝坊している旦那を起こしに行った。
行こうと思っていた。
「…うっわ〜…。」
いや、これ近づけないでしょ何この空気。
お通夜みたい、どころじゃない。
霊柩車の中みたい。
いや、この時代に霊柩車は無いけどさ。
「だっ…旦…那〜…?」
「………」
この時の俺は、本当に勇敢だったと、今でもそう思っている。
相当の覚悟を持って覗き込んだ旦那の部屋は、雰囲気や様子ひっくるめて、殺伐としていた。
中央にある布団の妙な膨らみ(おそらく旦那だ)を中心に広がる被害が酷い。
まず壁、真っ黒に染まったそれは、俺を呆然とさせるのには充分過ぎるものだった。
愕然とする俺に追い打ちをかけるように、畳が抉れ、引き裂かれているのが目に入る。
凄い荒れようだが、曲者というよりは、全て旦那の仕業で間違いないようだ。
その証拠に、大事なものは全て、被害を受けた様子がない。
旦那の愛槍の片方だけが、俺の推測を裏付けるかのように無造作に布団の横へ転がっていた。
物の焦げた匂いはしない事からして、早朝もしくは夜中の犯行だろう。
早朝は俺様が気づかないはずないから除外するとして、夜中…といえば、旦那が竜の旦那の所から戻って来た頃かな?
「…とにかく」
武田に何の災害があった訳でもないから、きっと竜の旦那絡みだろうと見当をつけ、俺は躊躇っていた一歩を踏み出し決死の思いで旦那の部屋へ入った。
直後。
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