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□嫌じゃない負けの定義
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おそらく意識的にだろう、幸村の醸し出す雰囲気と色気に、彼は完全に飲まれていた。


もうこうなってしまえばダメだ。


何であんな事言ったんだと、数秒前の自分の行動に、途方に暮れる。


「…政宗殿は?政宗殿はどうなんでござるか?」


「…え!?…ぁ…の」


呆然としていた政宗は、いきなり話しかけられた驚きに、ビクリと肩をはねさせた。


「あの、じゃわかりません。はっきり言って下さらねば。」


詰問口調の中に混じる喜悦。


ドSのスイッチは、押されてしまった。


そう理解した瞬間、政宗はもう、はっきりと自分の負けを悟った。


「……す…きだ」


「聞こえませぬ」


コイツ絶対、楽しんでる。


俺で遊んでいるのが、明らかにわかる。


ちったあ隠せよ幸村テメエ。


的外れと言われれば的外れな事を考えた政宗の心臓は、ふと幸村の方に視線を向けた瞬間、ドクンとはねた。


こちらを見つめる、真面目な表情にぶつかったのだ。


いつ見ても心を動かされるその表情は、本当に、本当に真摯なもので。


「…好きだ」


何の抵抗もなく、あっさりと口から零れたその言葉に、幸村はふわりと口元を綻ばせた。


ああ、その顔。


その顔を見て、俺はお前を好きになったんだ。


「愛してます、政宗殿。」


もうテレビ画面などには目もくれず、コントローラーを放り出して覆い被さってくる幸村に、彼はゲームを切る事すら出来ずに。


近づく唇をぼんやり見つめながら、こんな負けなら有りかもしれないなんて、心の隅で考えた。





嫌じゃない負けの定義
(今度こそは勝つなんて)(半ば不可能と知りながら)


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