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□お祭りと硝子玉
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幸政で甘め
幸村視点


<夕暮れと君>


うっすら空が赤くなる頃に、部活動が終わった。


俺の所属する剣道部は、注目は多々されても実際入部する人は少ない。


だから、短時間でも密度の濃い練習が出来るのだ。


部室に飛び込み声をかけてくる仲間を上手くかわすと、即行制服に着替え、道場と学校を繋ぐ渡り廊下を駆け抜ける。


暑い真夏の空気に、体中が汗塗れだ。


立ち止まってタオルを取り出したい衝動にかられたが、押さえこみ、階段を二つ分駆け上る。


右側に曲がり、廊下に沿った二つ目の教室。


「政宗殿ぉっ!!」


勢い良く開け放った扉が反動で戻ってくるギリギリに教室へ飛び込み、俺は一気に脱力した。


政宗殿がいなかった訳ではない。


ちゃんと、窓際の一番後ろの席に座っている、が。


「政宗殿〜…?」


指定のスポーツバックを教卓に静かに置くと、なるべく足音を立てずに政宗殿に近づく。


そっと傍らに立てば、机に伏せた彼から小さな寝息が聞こえてきた。


熟睡している。


珍しい事もあるものだと、俺は小さく目を見張った。


政宗殿はいつだって、自分の隙を晒さない。


クラスメート、先生、友達にすら、弱音は吐かない上に、一線引いていて踏み込ませないのだ。


勿論寝顔など、もってのほか。


疲れているのかはたまた…自分が物凄く信頼されているから、とか?


後者は完全に自惚れだと苦笑しながら、俺は、政宗殿の顔がよく見える様に屈み込んだ。


いつもの意志の強そうな青の瞳は閉じられ長い睫毛が頬に影を落とし、白い肌が夕焼けに赤く染まる。


鬱陶しそうに見えた為、長めの前髪を耳にかけさせると、政宗殿は一瞬身じろいだ。


ビクリとして硬直すると、また、すうっと寝息が聞こえる。


助かった……。


今この瞬間政宗殿に目覚められでもすれば、俺はきっと殺される。


けれどきっと、眉を吊り上げて怒る姿も可愛らしいに違いない、なんて。


「末期だなぁ…」


サラサラの髪を恐る恐る指で梳きながら、そんな自分に苦笑した。




fin,
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