short
□お祭りと硝子玉
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甘めのサナダテ
<君の左手薬指>
「…疲れた。休憩しようぜ。」
奥州にある米沢城の庭、青々とした芝生の上に竹刀を放り出して座りこむと、俺の真向かいでゼーハー言いながら竹刀を構えていた幸村も、
「…そうで、ござるな」
崩れる様に座りこんだ。
ひょっこり遊びに来た幸村と休憩も無しに長い時間打ち合った。
竜と言われようが虎と言われようが、体力は無尽蔵では無い。
いくら俺らでも、そりゃ疲れる。
「政宗殿」
「Ah?何だ?」
呼ばれて顔を上げると、呼吸が安定してきたらしい幸村が真面目な顔でこっちを見ていた。
「確か、外国では結婚式の事をうぇでぃんぐと言うのだとか。」
「wedding…。ああ、そういやそうだな」
相変わらずの平仮名発音に苦笑しながら返すと、幸村は一つ頷き、膝立ちになってこちらに歩いてくる。
何を思いたったのかと眺めていると、ヤツは優しい手つきで俺の左手を持ち上げた。
流れるような一連の動作に、俺は何の反応も出来ずされるがままで。
そして。
チュッ
「っ!?」
わざとらしく音を立てて薬指にキスをされた瞬間、一気に顔が熱くなった。
きっと今俺は、自分が考えている以上に赤くなっているだろう。
何か言おうと思いつつ何も言えずに口をパクパクさせながら呆然と幸村を見ると、ヤツは黄玉の瞳で俺を見つめ、何とニッコリ笑いやがった。
「これで政宗殿はずーっと、某の恋人でござるな」
楽しそうに、嬉しそうにそう笑う幸村が、何故かいつもよりかっこよく見えて。
「……バッカじゃねえの…」
んな事しなくても、ずーっと恋人でいてやるよ。
口に出すのが余りにも難しい本音は心の中で呟いて、再び薬指にキスをする幸村から真っ赤になったまま顔を背けるのが精一杯だった。
fin,