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□嫌じゃない負けの定義
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蝉の合唱がやかましい夏休みのある日。


ガンガンにクーラーをかけた政宗の部屋で、彼はいつもの如く自転車で現れた幸村と二人、麦茶をすすりつつゲームを楽しんでいた。


否、楽しむなんていう楽観的空気は今、ここには全くと言って良い程に無い。


コントローラーを握りしめた彼らの睨みつけるテレビの画面上では、互いの操るキャラクターはまさに、拮抗状態だった。


勝てば特に何があるという訳でもない。


ただ、二人が二人、どうしようもなく負けず嫌いなのが災いした故の当然の結果だ。


「……幸村」


沈黙を割った政宗のいつもより若干低い声が、幸村を呼ぶ。


「…何でござるか」


同じく低い声で、幸村が答える。


勿論双方、視線は画面に固定されたまま。
数秒の沈黙、そして。




「好きだ」




「ぶはっ!…っとお…」


「…ちっ」


動揺を誘おうと呟いた政宗の言葉に一瞬揺らいだ幸村は、それでも政宗が攻めきる瞬間に立ち直った。


小さく舌打ちをして再び画面に集中した政宗にふと、声がかかる。



「好き…でござるか。でも某は、政宗殿を愛しているでござる。」



「っ…!」


やられた…!!


低く大人びた声に、政宗の心に波のような後悔が押し寄せる。


まさかこう来るとは思わなかった。


「きっと某は、政宗殿に出逢う為、この世界に生まれてきたのでござろうな」


「〜〜っ!!」


よく恥ずかし気もなくそんな事をいえるなと内心罵倒しつつも、声が出ない。




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