S-Story
□ファイアウォール
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「ただサインをするだけの仕事に俺が必要なのか?」
低い美声で嫌味を言われる。
生徒会室の中央にあるデスクには、珍しい人物――会長、間宮龍大の姿があった。
「――少しは内容を読んでください」
龍大の隣で書類を仕分けながら彼に新しい書類を送る。
「お前が見てるんだから、俺が確認する必要ないだろ?学年主席の千尋さん?」
あからさまなからかいに、俺は少しの胸の痛みを感じながら、しかしそんなそぶりを一切見せずに手元の書類を処理することに専念する。
「――貴方が本気を出したら俺なんて足元にも及びませんよ」
「当たり前だろうが。お前なんか目じゃねぇんだよ」
はっ、と鼻で笑いながら書類に目を通し流れるようにサインをしていく。
内容に不備があれば俺の突き出し、再検討を無言で促してくる。
そういうところがしっかりしているし、仕事ができるところだと尊敬はしていた。
口で言っていることは嘘ではないようだ。
「……だったら、普段からしっかりしてくれたらいいんですけど…」
不備の書類を受け取りがらぼやくと、にやりと龍大が笑う。
「お前がいるのにその必要性はどこにある?俺は別のことが忙しいんだよ」
「――アッチの方ですか?」
「…どっちの方だろうな?」
にやっ、と口角を上げて龍大は笑うと、俺の腰を突然引き寄せてきた。
「なっ――?!」
「俺の趣味じゃねぇが、この細さは嫌いじゃねぇぜ?」
見上げながら腰を掴まれ、必要以上に近付かれるときゅっと心臓が縮まる。
龍大にそんなやましい気持ちがないと分かっていても、鼓動を乱す自分に腹が立った。
「――俺は貴方の取り巻きのように可愛くて華奢じゃありませんから」
そう、可愛くないことを言うのが精一杯。
「可愛くねぇヤツだな。少しでも可愛いことくらい言えば、抱いてやってもいいのにな」
「別に――必要ありませんから」
はっきり言い捨てると、龍大は面白くもなさそうに鼻で笑った。