S-Story

□ファイアウォール
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『俺は――お前が嫌いだ』

低いテノールが耳にやけに響いた。
声の主は眉間に深いシワを寄せ、苦虫を潰したような顔で告げてくる。

その表情は心から俺を嫌悪していて…。

『……奇遇だな。俺もお前が――大嫌いだ』

口角を無理矢理上げて、ヤツを皮肉る。

――それが俺の精一杯の虚勢だった。




 ファイアウォール




「あの――副会長…間宮会長はどちらへ?」

遠慮がちに問いかけられた言葉に俺は埋没仕掛けていた意識を目の前の現実に戻した。

「はぁ…間宮…?…また、ですか…」

ため息を吐くと、俺のそれを尋ねた男子生徒――会計の三鷹祐希(ミタカユウキ)が困ったように笑った。

ボサボサの髪に野暮ったい眼鏡をかけた彼は、一年。この全寮制男子学園では珍しい、中途編入生で地味見た目とは裏腹に派手な素行を買われて生徒会に入った。

「……少し待っていてくださいね」
「……ご苦労様です」

ケータイを片手に席を立つと、祐希は小さな声で俺の労いの言葉をかけた。

そんな些細な優しさが彼の魅力の一つかもしれない。

彼と少し話せば分かることだか、祐希は実に頭もいいし礼儀正しい。
校内に広がる噂がただの口さがのない噂に過ぎないことが分かるくらいに。

実直な性格が彼の良さであり、礼儀正しさが好ましい。

それ故に、うちのバカな会長――間宮龍大(マミヤリュウダイ)に目を付けられ、因縁をつけられたりするのだろうが…。

「はぁ……あのバカが…」

つい漏れた悪態に祐希は少し目をみはるが、すぐに長い前髪の向こうに表情が隠れてしまう。

普段敬語を使う俺が、そうやって普通になっても彼はなんの反応も示さない。

そういうところが、学園の生徒とは一味違って好感を持っていた。

彼に背を向けてダイヤルを押す。

ケータイは何度か電波を探したあと、コール音に切り替わった。


トゥルルルル…
トゥルルルル…
トゥルルルル…


「……ちっ、でらねぇ」

十数回目のコール音。
それでも出ないのは、傍にケータイがないのか、わざとなのか…。

後者の可能性が明らかに高いのは経験上感じているため、俺は留守番電話サービスに変更されても、しつこく電話をかける。

ヤツがヤってることなど、お見通しなのだから。
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