S-Story

□Prisoner
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 憮然とした態度をとってしまうのは、仕方ないというものだ。

 「そうだな、スピーチを考えておこう。蓮も、あまり仕事を詰めないように」

 社交辞令の言葉とともに、香坂さんはそれじゃあと、あっさり社長室を後にする。
 廊下を歩く人の気配が遠くなると、完全に独りになった。

 明るい蛍光灯の下、真っ暗な窓の外に映る自分の姿を見つめる。
 くっきりと浮かび上がる自分は、無表情だった。

 香坂さんと向き合っていた時も、この顔を守り通せていただろうか。
 からかわれた時は?
 頭を撫でられたときは?

 普段の自分では有り得ない感情に振り回されて、苦しくなる時がある。
 香坂さんといる時と、彼に関する処理を行うときが特に。

 それが何故なのか、どうしてそうなるのか、わからないほど子供でもなく、それに気がついた時には、同じ加速で身体も求めてしまっていた。
 
 しかし、自分のこの想いが、叶うはずがないことはわかっていた。

 偏見……嫌悪……異常者……。

 様々な負の感情にさらされることがわからないほど子供じゃない。
 だからこそ、この想いを抑えていなければならないのに。彼の傍にいればいるほど、苦しくなる。小さな触れ合いに、痛いほど心がときめいてしまう。

 彼の傍にいたい。少しでも、彼の役に立ちたい……。

 それだけで…十分なはずなのに、何故か彼の関係に嫉妬してしまう自分に嫌悪した。

 香坂と一時でも関係を結ぶことができる彼女達が羨ましい。彼はどうやって彼女たちに触れ、囁き、抱くのだろう…。

 そんな取り留めもない、妄想に捕われてしまう。


 「……馬鹿か、俺は…」

 俺にそんなこと許されるわけがない。傍にいられるだけでも奇跡に近いのだ。
 それ以上を求めてはならない。

 彼女たちは一時の優しさを香坂からもらっているが、俺は彼女たちよりも遥かに長く彼と一緒にいることができる。
 それで十分なんだ、と自分に言い聞かせる。贅沢をいってはいけない。

 小さく被りを振って嫌な考えを打ち消すと、俺は簡単に書類を片付けて携帯電話を確認した。

 着信履歴とメールが一件ずつ。
 時間は、20時を示していた。

 「………板倉(イタクラ)さん、か…」

 着信履歴もメールも。
 内容は『今夜、いつものホテルで』。

 文字が浮かび上がる画面から目が離せなくなる。

 ときどき、なにもかもがやる瀬なくなる。こんなことをしても、自分は満足できないし、それを本当は望んではいない。
 お互い割り切った関係だから、と分かっているぶん、なおさらやる瀬なくなる。

 「――板倉さんを、待たせるわけにはいかないし…」

 空虚な思いを感じながらも荷物をまとめ、俺は香坂社長のオフィスをあとにする。

 行き先は、ホテル。
 俺の、セックスフレンドの元だ。
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