S-Story
□ファイアウォール
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それから数日間。
やはりというべきなのか、手紙の主は俺の希望に気付いてはくれないようで、手紙の数は順調に増え続けていた。
内容はいつも何故か『初めまして』から。
その後は、俺がどんな行動をしていたのか。それを見てどう思ったのかがつらつらと続く。
毎日、毎日……名前のない手紙が、寮の部屋の前や郵便受け、机の中……に、差し出されていた。
よく飽きもしないものだ、と感心してしまう反面、その手紙を捨てる行為まではできずその封筒の数は俺の寮の引き出しに溢れんばかりになってきている。
それは俺の精神的な不安と比例するように積もっていた。
正直なところ、そろそろどうにかしなければならないと具体的な策を考えていたところだ。
今日は、その異常ともいえる手紙をまだ手にしないまま、生徒会室に足を向けていた。
連日、生徒会の仕事が忙しくなっていくのは、もうすぐクラス対抗のスポーツ大会があるからだ。そういった行事の関係は、生徒の自主性に任せていることが我が学園の誇りということで、面倒なことは生徒会が中心になって活動している。
「……せめて、生徒会役員が増えるか、あの会長が真面目になってくれるかすれば仕事も楽に進むんだろうがなぁ……」
つい弱音が漏れてしまうのは、やはり疲れているせいなのだろうか。
そんな覇気のない自分に自己嫌悪に陥りながら、生徒会室の扉を開けると意外な人物が書類の束を見つめていた。
「……り、龍大…?」
「――遅かったな」
生徒会長のデスク――不遜な態度でこちらにチラリと視線を流してきたのは、間宮龍大。
我が校きっての人気と成績・家柄を持った生徒会長様。
サボりの常習犯の彼がまさか自らの意志でその席に座ることなどなかったため、俺は一瞬幻か、夢でも見ているのかと思った。
「……なんだよ、ぼぉっとして。仕事、たまってんだろ。さっさとしろ」
呆然と入り口に立ち尽くしていると、龍大が目を細めてこちらを睨んできた。
どうやら、真面目に仕事をしているらしい。
「――明日は何か天災でも…?」
「……聞こえてるぞ。失礼な奴だな」
口にするつもりはなくても、つい口をついて出てしまった正直な思いは、聞き漏らされず龍大に拾われた。
ぎらり、と視線がきつくなったが、たったそれだけで。
また、龍大の視線は書類に戻された。
「っ――」
いつにない真面目な表情に、俺の心臓はいたずらに乱される。
どくどくと変な音を立てる心臓を何とか抑えながら、俺は龍大の隣に歩み寄る。
再び書類を眺めていた龍大は、書類を軽くデスクに放って伸びをした。
キレイに伸びる首の筋肉が、ワイシャツから覗いて目が離せなくなる。