S-Story

□ファイアウォール
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 「……優しいね。祐希ちゃんに心配かけたくないからって、強がってみたの?」

 生徒会室に傾く陽射しがオレンジ色に変わり、徐々に暗闇が占める時間に差し掛かる頃、浮竹が俺に尋ねてきた。
 夕闇に溶け込む生徒会室には、俺と浮竹が二人で片づけのために残っており、祐希と龍大はいない。

 「……まさか。あんなもの、本当に心配することじゃないでしょう」

 俺は、仕分けられた書類を片付けながら答える。
 浮竹はソファに寝そべって携帯電話をいじりながら、ふぅんと気のない相槌を打った。

 仕事バカの祐希は寮で同室になっている友人が迎えに来て、無理やり連れて帰った。そうでもしないと、祐希は帰らないからそれはそれでいい。
龍大はというと、書類整理をあらかたすると、何も言わず消えた。あいかわらず仕事をしない人間だ。
ただ、いつもと少し違ったことはその表情が少し険しく、いつも以上に無口だったことくらいだろうか。きっと昼間、龍大の楽しみの時間を邪魔してしまったからだろう。

 「――とかいいつつ、あれみたいな手紙初めてじゃなかったんじゃない〜?」
 「……」

 浮竹は鋭い。
 この学園に入って5年目の付き合いになるが、あの軽い口調のわりに気遣いや相手・状況を見る力が人並み以上にある。しかも、学園内に何か盗聴器や隠しカメラを持っていなければ知りえないようなことまで知っているので――隠し事は出来ない。

 「……まだ、事件性があると決まったわけじゃない」

 隠し事ができないからといって、無駄に心配をかけることが正しいとは思えない。だから、正直にいえない。
 似たような手紙がここ数日、十数枚送られてきていた。筆跡の関係から同一犯と目星をつけていたが、探し出す段階まで覚悟ができていなかった。手紙くらいなんの問題もないだろうし、俺が何もしなければ手紙の差出人も気持ちが落ち着いて、自分がおかしな行動をしてしまっていたことに気が付くかもしれない。
いたずらに刺激するよりも、自身でおかしいと気が付いて欲しかった。

「……相変わらず優しいね、副会長さんは」
 「……」
 「――そういう強い所、嫌いじゃないけど……時々寂しいよ」

 交わらない視線。互いに背を向けていたからこそ、その言葉が放たれたことを知る。

 なんともいえない罪悪感と後ろめたさに、いたたまれない気持ちに駆られながらも何も言えずに立ち尽くしてしまう。
 部活の声や、楽器の音が遠く聞こえた。
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