S-Story

□ファイアウォール
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 「……なんですか?」

 乾いた声が響いた。急にこの部屋の酸素が薄くなったような気がして、俺は小さくあえいだ。

 「……何か…困ってねぇか?」
 「ぇ――?」

 一瞬、龍大が何を言っているのか解らず、じっと彼を見つめてしまう。
 ほりの深い男らしい顔が俺を見つめていた。その目は真摯で、今まで見てきた龍大とは全く違う……なのに、それが彼の本来の姿なんだと漠然と感じた。

 「……なんかあったんじゃねぇのか?」
 「っ――」

 かっと、目元が熱くなる。
 驚いて龍大を見つめると、その真剣な瞳と正面からぶつかった。

 「な…何かってなんです、か…?」
 「……」

 龍大が一体何を言いたいのか。わからない程馬鹿じゃないのに、それに気が付かないフリをする。最低な自分。
 俺の問いかけなんと答えようか、龍大は逡巡し、唇を何度か湿らせたがそれが何か言葉を発することはなかった。

 気まずい空気が俺たちをみたす。

 龍大が今まで自ら仕事をすることも、俺の様子を気にするようなこともなかった。ただ、飄々と遊びつづける彼を止めに行くのが俺の日常だった。
いつも見ていたのは龍大の不適な笑みと、その広い背中。可愛い少年は勿論、多くの人々に憧憬と尊敬の視線を集めるその横顔ばかりを見ていた。

だから――今、こうやって向き合っていることが少し怖い。

まっすぐな視線に身体が震える。不快ではないけれど、怖い。怖い理由はわからないけれど……いつもと違うことが怖くて。何かが起こりそうな予感に心が急いてしまう。

「……言いたくねぇんならいいんだけどよ」

言葉に詰まる俺に、龍大は眉間に皺を寄せて視線をそらせた。
あぁ、しまった…そう思ってももう手遅れで。言いたくなかったけれど、一方で尋ねて欲しかったのも事実だった。深く尋ねて、俺のことを気にしてくれていることを少しでも長い時間感じていたかった。
それが、自分の身勝手な考えであることは十分すぎくらい解っている。だが、だからといって、胸にくすぶるこのわけのわからない黒い感情を誤魔化すことができない。
自分の心なのに、うまくコントロールできなくて、腹立たしい。

「はぁ……」

胸に詰まる思いを、ため息として何とか吐き出そうとする。
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