インディゴ色に染まる明日

□EPSORD1 出会い
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 「お願いします!どうか……どうかっ!融資の件、考え直していただけませんかッ!?」

 しっとりと濡れたアスファルトに、額を擦り付けんばかりの勢いで――渋沢理人(しぶさわりひと)は頭を下げた。
 さわさわと音もなく降り続ける雨が理人を濡らす。

 春はもう、目の前まで来ていたのに。

 理人にはそんなささやかな幸せさえ訪れることがないような、そんな予感を感じさせていた。

 雨で濡れる寒さ以上に身体が震える。目の端に見える黒くきらびやかに磨かれた靴の先が自分にむくと、生きた心地がしない。

 しかし、理人は震える声を張り上げて、頭を下げ続けた。

 「―――お前、誰だ?」

 降り続く雨が突然途絶え、頭上から低く底冷えするような声を投げ掛けられて、顔をあげた。

 黒くやや光沢のある上品なスーツを身にまとい、ダークカラーのワイシャツの首元を緩く開いている男。黒い髪は清潔感があるようにまとめられており、無駄に撫で付けている世間のサラリーマンとは違う、センスの良さを感じる。
 カタギには見えない風貌。
 その男の真っ黒いサングラスに映る自分の怯えた姿に、理人は緊張を覚えた。

 雨が止んだのは、男がさしていた傘をそっと理人に傾けていたからだった。

 「――龍也(りゅうや)さんが名前を聞いてんだろうが、クソガキ!さっさと答えろや!」
 「っ――!」

 男の優しさに目を奪われていると、背後から現れた短い金髪のいかつい男が理人の肩を足蹴にする。
 ずるり、とアスファルトに手が擦れて痛みを感じたが、無様に倒れることは防ぐ。

 「――やめろ、タツヤ。相手はまだ子供だろう。龍也さんも…お時間がありますから」

 傘をさす男の背後からもう一人。
 細身の体をプレスの効いたダブルのスーツで包んだ切れ長の目をした男があらわれた。一瞬、性別を疑うくらい華やかな印象に理人は目を奪われる。
 つややかな黒髪に小さな雨粒が光り、をまるで真珠の髪飾りのようだった。

 「タツヤ、シュン、少し待て」

 サングラスの男は、シュンとタツヤと呼ばれた男たちを片手で制すると、理人に向かって顎をしゃくる。
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