BASARA話 2

□今月今夜
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「お疲れさま、幸村君、猿飛さん。これ、食べてね。」

「ご馳走様です、いただきます。」

佐助が挨拶をしている後ろで、幸村は筆を走らせる。
一時待てば小さく「できた」と声がした。

「おばちゃん、できたでござる。」

ぴっ、っと差し出されたそれには


『道祖神』


と辿々しい字で書いてある。

「ありがとう。あら、去年より上手になったじゃない!!・・・はい、これ、お賽銭。」

ポケットを探って、小銭数枚を備え付けられた缶の中に入れれば、ちゃりん、ちゃりん・・・と音が響く。
そして「お気を付けて」と後ろ姿に声をかけて見送った後、幸村は佐助に駆け寄った。

「佐助、何をもらったのだ?」

「おはぎだよ。」

「食べたいでござる。」

「そうだね。甘いものだから、ご飯の後にしよう。」

そういって佐助は夕食の準備を始める。
夕食といっても今日は町の集会所にいるため、手作りの弁当だった。

上田には道祖神を奉る風習がある。
その地区の年長の子の家が頭領となり、その親は子供達の手伝いをする。道祖神へのお供え物を用意して、櫓を組み、旗を立て・・一日がかりの大仕事。
そして子供達はお札を配り、その代わりに賽銭をいただくのだが、それはそのまま子供達の小遣いになるのだから、俄然頑張るわけだ。
しかし近年の少子化の影響か、この地区の子供といえば今年小学校2年生になる真田 幸村ただ一人。親といっても「親代わり」の大学生の佐助と二人暮らし。
幸村が小学校に上がった去年、家庭状況を見兼ねて道祖神の行事はもう終いにしようと町の年長者から声が挙げられたが、そんな家庭状況故に近所には世話になっているからこそ、やらせて欲しいと佐助は言った。

「町内全員来た、って感じかなぁ。」

向かいでは大きな稲荷寿司をむぐむぐ食べている幸村の姿。

「これ食べたら、片付け始めよっか、旦那。」

「うん。」

ぷはっ、と、お茶を飲み干した幸村の視線は先程戴いたおはぎに向かっており、佐助はあんこがたっぷり付いたそれを皿に取り分けた。
幸村はご近所皆の孫の様な存在で、普段も彼の好物を承知の上で届けに来てくれる。そしてそれを嬉しそうに受け取る彼がまた可愛らしいと、人気者だ。
おはぎをほおばる幸村に、灯籠の火を落としてくるね、と、靴を履きかけたその時、玄関のガラス戸に人影が見えた。



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