BASARA話 2

□上田の地にて思うこと(2013年謹賀新年企画)
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【転生現代パロディ主従de遠距離恋愛】

日付が変わろうとする、2012年12月31日
上田城、東櫓を潜り、神社へと続く参道を歩く。
そこには二年参りの参列者で列を成していた。

恋人と歩くもの。

手を取り合う老夫婦。

きっと今日は特別であろう、こんな夜中に外出を許された子供達の姿。

お月さまは、天高く昇り、湖光と夜空を照らしていた。

「うーっ、さっむいねぇ。」

フードに顔を埋めながら佐助が言う。

「うむ。お参りが終わったら甘酒を飲んでもいいか。こうも寒くては、次の場所に行くのにも体が動かん。」

幸村も息を白くさせながらそう言った。

「ちょっと、旦那ぁ。今年は車で来てるんだから、寒さ全然関係無いじゃん。」

「それはそうだが、あの甘い匂いは我慢できん!」

「やっぱり寒さ関係ないっ!」

そして、あははと二人の笑い声が境内に響いた。
前を見れば、まだまだ続く、長蛇の列。

「・・・よかったね。旦那。」

何が、など言わなくても幸村には解る。
こんな小さな神社に沢山の参拝客。
『真田』が忘れられてない証拠。

「ああ。」

幸村は小さく頷いた。

携帯の時計を見れば、年が明ける5分前。
佐助はスマートフォンを取り出し画面を弄り始めるのを、幸村は微笑ましく見ていた。

(片倉殿に、メールか。)

頻繁にメールをやり取りする佐助と違い、幸村は滅多に自分からはしない。

(たまにはこちらから電話してみようか。年が明けたら、繋がりにくくなるしな。俺から電話なぞ、政宗殿は驚かれるだろうか。)

そんな恋人の声を想像すれば、自然と顔も綻んでくる。
そして携帯電話を取り出しアドレス帳を開こうとすれば、タイミング良く鳴るそれに、ドキリとした。

ディスプレイを見れば、「伊達 政宗」。

「今回も、俺の負けか。」

そう呟き電話に出れば「Hey ! 幸村!!」と、いつもの威勢の良い声が聞こえてきた。

「政宗殿、今年もまた、大変お世話になり申した。」

今年一年の感謝の意を伝えれば、

『今年もお前の事しか考えない一年だったな。』

と、恥ずかしげもなく言う恋人の言葉に、幸村は盛大に赤面した。

隣を見遣れば、佐助も電話をしてるが、この雑踏のせいか、佐助の喋る言葉は聞き取れなかった。

「全く、この年越しの日までも恥ずかしい事を仰る。」

『この一年の、素直な気持ちだ。・・何だか騒がしい音がするがお前達も二年参りか?』

”お前達も”と言うことは、この奥州の主従も二年参りだろう、どこまで仲が良いのかと、自分達の事は棚に上げ、幸村は思った。

「はい、まずは上田城の真田・・・」

神社、と言いかけたその時

『Happy new yaer !! 愛してるぜ!幸村!!』

その言葉に、年が開けたと気付かされるも、

「あっ!あああいっ!!・・政宗殿ぉ〜!」

いつもは流暢な英語で言われるその言葉。

(ああ、英語ならば聞き流せるのに・・)

それを敢えて狙ったのか、しっかりとした日本語で「愛してる」と。
かぁ、と顔に熱が集まる。
そして、これを言った張本人は、一体どの様な状況でこの言葉を言ったのかと想像すれば、尚更顔は熱くなるばかりだ。

「お、めでとう・・ござりまする。」

動揺する気持ちを落ち着けて、新年の挨拶を口にする。
そして、こっそりと「某も」と付け加えた。

『何処へ出掛けてるんだ?』

「はい、今年は一番に真田神社へと。」

『そうか。父親と・・自分のか?』

「松平殿もおりまする!」

そう吠えれば、ククッ、と声を押し殺して笑うのが聞こえた。

参拝者の列は、ゆっくり、ゆっくりと前へ進む。
お参りを済ませた人々は、皆笑顔ですれ違って行く。

『なぁ、幸村。』

「はい。」

『昌幸公に、俺からの願い事、伝えてくれねぇ?』

「は?我が父に・・ですか?何でしょう。」

そう言うと、先程からの口調とはまた別に、畏まった声色が聞こえてきた。

『幸村と・・来年の正月は、幸村と一緒に過ごしたい。』

「政宗殿・・」

『親父殿に、そう伝えてくれよ。幸村。』

「・・それはっ」

恋人が一緒に過ごしたい、と。
幸村自身にとっては、この上ない嬉しい言葉が聞こえてくるも、その表情には迷いが見える。

「政宗殿・・申し訳ございませぬ。」

『・・・』

それは、電話越しの恋人にも伝わっているようで。

「某、今は・・上田の民が無事に新年を迎えるのを見届けとうございます。また一つ、歳をとれる喜びを、感じとうございますれば。そのお気持ち大変嬉しゅう思いますが、もう暫く・・暫くは・・」

『わかってる、幸。今のはナシだ。忘れてくれ。』

「政宗殿・・」

『いや!忘れるな!!お前の気持ちが決まったら、いつでも来い。ずっと待ってるからな。』

今、この世で"幸村"など、一市民に過ぎない。
世を震撼させた兵は、もう過去の話。
自分1人が想っただけでは、この世は何も変わらない事はわかっている。
しかし幸村は、400年前に自分が望んだ平和な世の中というものを、もう少しこの眼で見ていたかった。
そんな自分の我儘に、仙台で活躍する年若い
社長をふりまわしているというもの重々承知の上。


「はい!ありがとうござりまする!!」

申し訳なさも交じりつつ、政宗に礼を述べる。

列は前へ、前へと進み、いよいよ次は幸村と佐助の番となった。

「では、政宗殿。小十郎殿にもおめでとうとお伝え下され。」

『OK...』

「あと、佐助の事を、お頼み申すと!」

「Ah・・悔しいが、了解した。」

そして電話を切った幸村は、昌幸と、その後の藩主と向き合った。

ガラガラと大鈴を鳴らし、願いを呟く。



「父上。そして松平様。今年も上田の民が健やかに過ごせますように。」


(それと・・)


「奥州の殿様と従者殿のご健勝を」


(そして・・)


「我が従者が・・佐助が幸せでいられるように。」


(お守りください)


最後に一つお辞儀すれば、「旦那!」と声がかかった。
その声の方を見遣れば、既に振る舞い餅を貰っている佐助の姿。

「旦那ぁ!お神酒、戴きなよ!」

「うむ!甘酒もな!!」

「もう、一杯だけだからね。」




「そうだ!佐助・・」

「あ、旦那・・」




「「あけましておめでとう!!今年もよろしく!」」




END

あけましておめでとうございます!!
今年もどうぞよろしくです!!
風真

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