BASARA話 2
□今も昔も変わらぬものは
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「はぁ・・はぁ・・、つ・・いた。・・到着ー!」
幹に寄り掛かりながら、水筒の水を一気に喉に流し込む。
そして山頂の一番高い木の上によじ登り、眼下に広がる現代の上田の街並みを眺めた。
千曲川に向かい、すり鉢状の地形。
南と西にある、合戦の地。
そして、上田城。
400年前とは随分違う街並みに、複雑な想いを抱くのも恒例となりつつある。
(発展が、良いのか悪いのかなんて、俺様には判らないけどね。)
それでも、そんな現代の街を、主の幸村は好きだと言う。
命のやり取りなど無い、子供が健やかに育つ事ができる、そんな未来を望んだ主。
「・・ま、俺様としちゃあ、旦那が幸せであればいいや!」
普段、色々考えてしまう事があっても、大抵はこの結論で終わってしまう。
今も昔も、自分は幸村の為に生きている。
そして佐助はバッグを漁り、携帯を取り出した。
・・・・・カシャッ
航空写真・・とまではいかないが、普段なかなか見れないであろう山頂からの、更にその上からの、写真を撮る。
そして、その写真を添付して、幸村宛のメールを打った。
「・・学校帰りに・・鰹節・・お願い!っと。送信っ。」
そして”完了”の画面を確認し、再度メール作成の画面を開き、もう一度写真を添付する。
送信先は『片倉 小十郎』
本文は無い。写真だけのメール。
これを見て、遠く離れた恋人は何と思うだろう。
送信してから程なくして、着信音が鳴り響いた。
「もしもーし。お仕事お疲れさま!」
『ああ、佐助。お前、どこにいるんだ?』
「へへー。太郎山に登ったんだ。今年は1時間もかかっちゃった。」
『登るのはいいが、どうせ木を渡り歩いたんだろう?誰かに見られたりでもしたら・・』
「大丈夫だって!登山道は、通ってないし。」
『・・まったく。』
はぁ、と、小さくため息が聞こえた。
腕時計を見たら、時間は丁度12時を指している。
きっと昼休みに入ったのだろう。
「お昼?」
『ああ。』
「また外食でしょ!」
『仕出し弁当だから、中食だ。』
「それ、外食と同じ!ちゃんとバランス良く食べてる?」
『あ・・ああ、大丈夫だ。』
まったく・・、と、今度は佐助がため息をついたが、それを聞いた小十郎は「これで引き分けだ」と言って、小さく笑った。
『上田が一望だな。』
「でしょう?・・俺様のお気に入りなんだ。」
『こんな情報を俺に送ったって事は・・』
「??」
『・・伊達軍に攻め込んで欲しいって事か?』
「はぁ?!そんな事はさせないから!この俺様が、通さないから!!」
それを聞くと、さぁ、どうするかなぁ、と、小十郎は、悪戯めいた口調で言った。
攻めるも何も、あんな写真で地形など知ったところで何の役にも立たない。
小十郎も昔を懐かしんで、言葉で遊んでいるのだ。
そんな会話を楽しんでいれば、突然遠くから、ごぉ・・と音がした。
「おっと、風がくる。」
後ろを見遣れば、真田の山の木々達が、大きな唸り声を轟かせている。
ここに風が届くまで、あと少し。
「ごめん、小十郎さん。大きな風が来るから、木から下りなきゃ。またね。」
『ああ、またな。今度一緒にスニーカー買いに行こうな。』
「えっ!あっ、うんっ。」
唐突に言われた言葉に驚いたが、ちゃんと返事をしている時間がない。
急いで通話を切り木から下りれば、その瞬間、予想通りの大きな風がびゅうと吹く。
そして佐助は木の陰に座り込み、通り過ぎるのを待った。
「去年の事、覚えててくれたんだ。」
膝を抱え、ぼろぼろになったスニーカーを撫でる。
去年の今ごろもこうして山を登り、無茶をしたせいで買い換える羽目となった
その後、新品のスニーカーが小十郎の目に留まり、その経緯を伝えたのだった。
そして、今度、買いに行こう、と。
いつとは言わなかったけど、仕事でまたこっちに来るのだろうか。
それとも東京で待ち合わせ?
この恋人の優しさも、400年前とは変わらない。
いや、もっと甘くなっただろうか。
気がつくと風は治まり、また穏やかな景色が広がっていた。
木立の合間を縫って開けた場所へ行けば、眼下では鳥達が気持ち良さそうに飛んでいるのが見える。
「さぁて、帰ろうか!」
・・・ピピッ
タイミング良く鳴るメールの着信音は、我が主からのもので。
『あいわかった。いっしょに団子は買ってもいいか?』
その内容に、思わずクスリと笑みがこぼれる。
『いいよ。1パックだけだからね。』
そう返信して携帯をバッグにしまいつつ、佐助はふと、考えた。
「好きな人の声を直ぐに聞けるのだから・・まぁ、”今”も悪くないかもね。」
そしてまた、木立の中に身を潜め、一気に坂を駆け出した。
(でも、声を聞いちまうと、会いたくてしょうがなくなる。)
彼を想う気持ちも400年前と変わらない。
いや、もっと膨れ上がったか。
「自分・・おばかさんっ。」
恥ずかしさを隠すように、佐助は更にスピードを上げ、駆ける事に集中した。
END