BASARA話 2

□今も昔も変わらぬものは
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「よっ、・・はっ・・、」

一般登山道を大きく外れ、山を駆け登る。
木々を点々と飛び移り、時々地に降りて最近の街では中々得られない土の感触を楽しんだ。

「あ!山菜みーっけ!」

山を駆け上がりながらも、そこは主婦気質な佐助。
せっかく山に登っているのだから山の恵みを戴かない手はない。

「夕飯は天ぷらとおひたしで決まり!そういえば鰹節って・・・うわぁっ!!」

うっかり木から滑り落ちそうになったのを、寸でのところで踏ん張る。
体重を掛けた枝からはミシリと音が鳴り響き、思わず佐助も息をのんだ。

「・・・あっぶねぇ!集中しなきゃ。」

もう大分登っただろう。眼下に広がる街は随分と小さく見える。

「こんなんじゃなくて、忍装束の方が動きやすいんだけどねぇ。」

スニーカーを履かせた足をぶらつかせながら、佐助は一人ごちた。

400年前の記憶を頼りに、初めて山を駆けたのは数年前。
当時の様までとはいかないが、現世でも使えた忍の身の軽さに嬉しさを覚えつつも、現代では必要のない力だと考えれば、幾分寂しい気持ちになった。
それでも、せっかく残った僅かな力を眠らせておくよりは気分転換に時折山へ出掛けよう、と、新緑の時期にこうして山へと出掛けている。体を隠せる葉が生い茂る、この時期に。

「せめて草鞋・・あればなぁ。」

お土産屋さんで一度見た事があったが、あれはディスプレイだったのだろうか、と思いを巡らす。

「それとも、作るか?」

アパートの近くの田んぼに掛けられた藁の束。少し貰って、数百年ぶりにこしらえてみてもいい、などと考えれば、思い出すのは、主と過ごした懐かしい日々。

「旦那はすぐに擦りきらしちゃったから、よく直してあげたよな。」

今は時折、スニーカーを洗う程度。
それはそれで正直手間は掛かるが、昔の手間から考えれば、ほんの僅かなものだ。
やはり400年という時の流れは、良くも悪くも何もかも変えてしまった。
ただ、綺麗になった靴を見て「ありがとう」と微笑む幸村の笑顔は、鼻緒を直してあげた時に微笑んだあの笑顔と変わらなかった。
400年前と唯一変わらない、大切なもの。

「さぁて、ここからは一気に行きますか!」

色々な想いを胸に、残り僅かな山頂への道を駆け上った。
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