BASARA話
□保護者恋愛 6 (153〜186)【最終話】)
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「失礼します。」
ノックをして職員室のドアを開けると、先生の腕に抱かれていた旦那が顔をあげた。
ほっぺの赤さが熱の高さを物語っていて、なんで一刻も早くに駆けつけなかったのだろうと後悔の念が押し寄せる。
そして、そんな俺に幸村を任せておけないと言わんばかりに、その傍らには政宗が旦那の手を握っていた。
「よかったね、幸村くん。佐助さん来たよ。」
先生の言葉に、旦那はこくりと頷いた。
「政宗君も幸村くんと一緒に起きちゃって。それからずっと、側にいてくれてるんですよ。」
一緒に看病してくれてたんだよね、と先生が声をかけると、旦那と同じくこくりと頷くも、視線は旦那から離れなかった。
一番最初の「喧嘩相手」の印象は、所詮子供同志の喧嘩と言えど、気にはなっていた。それは、仲直りしたはいいけど、これからも仲良く生活していけるかな、とか。
でも今は、幼稚園の生活も政宗がいるから安心して行かせられる。
旦那も政宗が大好きだし、政宗も旦那が好きだ。
ありがとう、と言おうとしたその瞬間、ドアの開く音と共に彼の声が聞こえた。
「失礼しま・・ま、政宗様っ!!」
先程までの冷静な彼は何処へ行ったのだろう、と思うほどの慌てっぷりは、やはり自分の守るべき人が思わぬ場所にいたからだろうか。
「片倉さんもご一緒ですか。」
先生の問い掛けに小十郎さんは「彼らを病院へ送るので」と答え、直ぐ様政宗に駆け寄った。
彼の言葉に先生が少しほっとした表情になったのは、普段は自転車しか乗らない俺の、これから行かなければならない病院への事などを心配して下さっていたからだろう。
俺は色々な方に助けてもらいながら旦那を育てているんだ。
「旦那、おいで。」
先生の腕から旦那を抱き上げた瞬間、服の上からも解る程の高熱。
焦りを感じ、胸がどくりと鳴る。
早く治りますように、と先生から頭を撫でられれば、旦那は小さく「はい」と言い、俺の肩に頬を刷り寄せた。
真っ赤な頬とぼんやりとした瞳。
今日の朝まで風邪の症状は無かったし、インフルエンザだって周りには誰もいない。
病院へ伝える為に先生から様子を聞いていると、
「大丈夫か?佐助」
耳元で旦那が囁いた。
だるそうな小さな小さな声だった。
「え?・・何が?」
意味が解らず聞き返せば、
「ずっとケータイ見ながら、はぁーってしてたから、
だから某、佐助を一人にしておくのが心配だったでござる。」
驚いて旦那の顔を見れば、虚ろながらもしっかりと俺を見つめていた。
確かに最近はずっとその調子だった。
小十郎さんへメールが返せなくて。
想えば想うほど辛くなって。
「ごめんね、ごめんね、・・旦那。ごめん。」
ぎゅうと旦那を抱き締めれば、苦しいぞ、と身動ぎをした。
「子供は良く見ているんですよね。自分が気付かない、どんな些細な事でも。」
先生が幸村を見つめ、そして頭を撫でる。
見ていたんだ俺の事。
心配してくれてたんだ。
俺はこんな小さい子に、心配をさせてしまってたんだ。
「もう、もう大丈だから。」
「ほんとか?」
「ほんと!」
そうか!と微笑む旦那にホッとして、そして小十郎さんを見やれば、政宗を抱き上げながら、苦笑いを浮かべている。
俺は心底、反省した。
「じゃあ、これから病院行ってきます。」
幸村を抱きつつ、先生に挨拶をする。
小十郎さんは、旦那の荷物を抱えながら、政宗に言葉をかけていた。
朝の挨拶が云々、朝食が云々言っているが、見た目とは真逆に位置するオカンな部分。
そのギャップに笑ってしまう。
「幸村くん、病院頑張ってね。月曜日、元気になって会おうね」
「はいでござる、せんせい。」
先程よりも、気持ちは幾分元気になったのか、しっかりと顔を上げて挨拶をした。
「さあ、行こう。旦那」
夜間に病院なんて行ったことないけれど、小十郎さんもついてるし・・・
症状を見れば、これは知恵熱だ。
そんな事を思いながら、先生の横を通りすぎようとした。
「佐助?虫に刺されてる。」
「へ???」
子供とは、思いもよらぬ事を口にするものだと思い知らされた。
「虫・・・ココだ、佐助。痒くはないか?」
そして、ぐいっと上着のフードを下げ、そこを指でつついた。
「ちょ!旦那っ!!・・やめっ・・」
両手で抱いているので隠す事も出来ずに、それは曝された。
先程までの情事の痕。
急いで恋人に視線をやって助けを求めれば、一緒に病院で薬をもらおう、という何とも言えない微妙な言い訳と共に、フードを整えられた。
「かゆくなる前におくすりだな」
「わわわ判ったから、はいはいっ!!」
一端に未来の部下を気遣う気持ちは、もうちゃんと育っているようで。
先生と目が合うも、小十郎さんと俺とを交互に見遣り、心なしか口許が緩んでいるようだった。
うん、見間違いだ。きっと旦那に向けられた笑みだ・・ということにしておこうか。
「じゃ、じゃあ先生。おやすみなさい。」
「はい、お気を付けて。」
お互いに苦笑を浮かべつつ、俺達は職員室を出た。