BASARA話 

□保護者恋愛 6 (153〜186)【最終話】)
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153

今この時間割りは、就寝の時間だ。
怪我・・よりも、具合を悪くしたな。
お腹痛くなったとか?
旦那のことだから、食べ過ぎちゃった?
動揺しながらも通話ボタンを押して携帯を耳に押し当てる。
それと同時に小十郎さんが俺の肩に上着ををかけてくれた。
独りじゃないという心強さを感じながら、呼吸を整える。

「はい、猿飛です。・・・・幸村、具合悪くなっちゃいましたか?」

先駆けて口にすれば、

『すみません、猿飛さん』

申し訳なさそうな、先生の声が聞こえてきた。
話を聞けば只今熱が38度の発熱、そして静養室で寝ているとの事。

『寝る前まで特に変わった様子はなかったんですが、先程突然泣き出して・・』

先生が触れれば、焼けるような熱さだったらしい。
基本的に、幸村は体が丈夫だ。
風邪も滅多にひかないのに今回の熱の原因が気になりつつ、これから行くことを伝えて電話を切った。


(行かなきゃ・・いけないんだけど・・)


急いで幼稚園に向かわなければならないのに、自分の中に生まれる、この気持ちが行動を鈍らせる。
晴れて恋人同士になって、これからという時に、止められて。
俺にはそういう経験無いけど、その気持ちは解らなくもない。

(男としては・・イヤだよなぁ)

散らばった服をかき集め、

「ごめん・・ね。」

そろりと顔を向ける。
するとそこに立っていた小十郎さんは、既に服を着て支度を整えていた。

「行くぞ。早く着替えろ。」

「うん。」

車を出すから、と早々に部屋を出て行く後ろ姿を見送る。

(呆れられちゃったかな。)

独り残された俺も、急いで着替えて後を追った。




政宗の家から幼稚園までは車で十数分。
その途中に俺のアパートがある。
俺が乗り込むのと同時に出発した車は、いつも一緒に遊ぶ公園を通りかかるところだった。

「あ、そうだ。緊急医ってどこだっけ。えっと・・消防署に電話すれば教えてくれるんだっけ。」

「青葉クリニック。」

携帯を出そうとポケットに手を突っ込んたが、小十郎さんから即座に病院名が返ってきた。
こんな事も把握しているなんて、さすがだと思う。
凄い、と言えば、「政宗様の為だ」とお決まりの言葉を放った。


そして車は見知った通りに出る。幼稚園まであと少し。
互いに無言になり、気まずい空気が流れた。

「ごめんね。」

「・・あ?」

「いや・・、うん。ほら・・」

謝罪の理由なんて恥ずかしくて言えないけど、雰囲気を壊したのは確かだ。
いたたまれなくなり俯けば、車が静かに停車し、到着したんだと思った。

「佐助。」

「ん?」

名を呼ばれて顔をあげる。
エンジンもライトも切った静かな車内。その暗がりに紛れて、頬に食むような柔らかなキスをされた。

「お前は、もし俺が行くなと言えば行かないのか?」

「それは無理。」

「俺もそうだ。もし政宗様が具合を悪くされたのなら、お前を放ってでも行くだろうな。」

「・・・うん。」

そして左手でゆるりと髪を撫でられる。
俺はその大きな手に自分の手を重ねて頬を摺り寄せれた。

「今の俺達の一番は、子供たちだ」

「うん。」

「そして俺はそんなお前に、惚れたんだ。」

「う・・ん」

「解ったのなら、早く迎えに行ってやれ。」

「うん!」

そうだ。
俺は幸村を育てると昌幸さんの墓前に誓った。
幸村を・・旦那がちゃんとお館様の跡継ぎになれるように。
両親が居ない寂しさや不安を感じさせないように。

そう、誓ったんだ。

「ありがと、小十郎さん。」

そして、行ってくるね、と声をかけて、車のドアを開けた。
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