BASARA話
□葱と牛蒡〜Twitter お題より〜
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女子部員5名と俺、そしてマツ先生の7人分の花束。
普段だったら男の俺一人で持っていくには余裕な量だが、今日は中心となる枝物と花の包みが別れていた。枝の方は立派すぎて、前が見えないぐらいだ。これは一回じゃ運べそうにない。
こういう時は慶ちゃんが手伝ってくれるんだけど・・・、
「さ、行こうか佐助くん。」
「悪いね、忙しいのに。」
「・・・2階の階段まで。」
「・・・やっぱな。」
一緒に教室に入ったら必ずと言っていいほど、マツ先生から慶ちゃんへお説教が始まる。
なので手伝ってくれるのはいつも、教室のある2階の階段まで。
教室は一番奥にあるのに。
「・・・でさー、この前久々にマツ姉ちゃんに会ったんだけど、会った早々『貴方はそうやって定職にもつかず、挙げ句の果てに上杉さん家でお世話になる始末!犬千代様はお優しいから何も仰らないけど、お心を察しなさい!!』なーんてさ、めちゃくちゃ怒るの。」
可愛い顔してるのにさ〜、と、笑いながら話す。
「でも謙信さんトコも長いよな。立派に『定職』じゃん?」
「だろ〜?俺、こう見えても『フラワーショップ えちご』の看板男子だぜ?俺がラッピングした花束を渡せば、女の子なんて一瞬で恋に落ちるっての!」
多分そういうところが、怒られるポイントなんだろう・・と思ったのは内緒だ。
あはは、と、俺は曖昧に返した。
「そう言えば佐助くんさぁ・・」
「あ?」
「彼女できた?」
「は!?」
唐突になんて事を言うんだこの人は。
「出来ないよ、彼女なんて。」
「作らないの?」
「平日の放課後はサッカー部、金曜日は華道部。週末は真田の旦那の世話と家事。・・そんな暇、俺様にはないっつーの。」
「・・でも、恋はいいもんだぜ?皆を幸せにする。」
慶ちゃんは、視線は前を向きながらも、見つめているのは前じゃない。
一体何を考えているのだろうか。ニコリと口許を緩めた。
「佐助くんも早く作りな、彼女。」
「そうっすね。まぁ・・無理だろうけど。」
「何で無理なのさ、佐助くんならイケるって。・・って、二階だ。俺はここで失礼するよ!」
階段の踊り場に花を置き、じゃあねー、と言い残して早々に去っていった。
「・・・何なんだよ。」
言いたいことだけ言って。
よっ・・、と、声をかけ枝を抱え直し、階段を昇りきって、教室へと向かうべく足を進める。
家庭科室、家庭科準備室、第一美術室、美術室倉庫、国語科準備室、それらを通り抜け、そして一番端にある第二美術室。
がらりと戸を開けた。
「ありがとうございます、猿飛君。」
マツ先生が駆け寄ってきて、枝を受け取ってくれた。
「お願いします。それと、これ。納品書です。」
マツ先生が抱える包みにそれを放り込む。
もう花の名前は記憶した。
「花は別の包みなんで、俺、もう一回行ってきます。」
そう言ってドアを出ようとしたら、後ろで「また逃げたわね!」という声が聞こえた。
叔母さんには、慶ちゃんの考えなんてお見通しなんだと、可笑しくなった。
ドアを出てすぐ隣の、国語科準備室を通る瞬間、ちら、とドアを見遣った。
技術系の教室に紛れての文系の準備室。
何でも、ボロ校舎の改築がナンタラで、一時的に此処に設置されたらしい。
詳しくはわからないけど。
(確かこの時間って、先生は部活に行ってるんだよな。)
ウチのクラスの国語科教科担任の片倉先生は、野球部の顧問でもある。級友の政宗が「あいつを怒らせたら、感電死だ。」と、ワケの解らないことをほざいていた。
ヤのつく職業顔まけのその人。
そう・・・
俺の、想い人。
勿論この想い、先生は知らない。
(ぜってぇ、無理だって。それに男だぜ?こんな俺の想いなんて知られたら、気持ち悪がられるっつーの。)
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