BASARA話 

□牽牛の雅量
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上田駅、新幹線改札口。

そわそわと落ちつきなく、時計と発着を知らせる電子案内板を見ている青年が一人。

『長野行き新幹線がまもなく到着いたします・・・』

アナウンスが流れ、暫くすると下り線の階段より降りてきた人々で、改札口がごった返した。

時刻はもう夕方を過ぎ、出張帰りだろうか、サラリーマンの姿が多いように見える。

「・・・政宗殿っ!」

「幸!」

人の波を掻き分けて、待ち人の元へと駆け寄った。その彼もまた、スーツ姿にビジネス用のバッグを持っていた。

「お待ちしておりました。荷物をお持ちいたします故、こちらへ。」

「Thanks、会いたかったぜ。・・荷物はいい、自分で持つ。」

そう言うと、肩を抱き寄せ、ちゅ・・と幸村の額にキスをする。

「な、何をっ、こんな所で!」

幸村は慌てて手で額を覆うも、顔は真っ赤で、それを見て政宗はクスクスと笑った。

「どうせ誰も見てない。」

「そういう事ではござらん!!」

むぅ、と唇を尖らせ、そっぽを向くも、土産の入った袋を無言で差し出せば、「ありがとうでござる」と、はにかんだ。

(まったく、ころころ表情変えやがって・・子供みてぇ。)

口に出せば、また吠えられるだろうと感じた政宗は、これを自分の中にしまっておくことにした。

外に出ると、新幹線からみた景色同様、サァサァと雨が降っている。

駅前で待機中のタクシーに乗り込み、行き先を告げた。

「片倉殿には何と?」

「Ah・・小十郎には・・明日の昼までには帰る・・と、な。」

「まったく。お忙しいんでしょう?来月の夏期休暇には、某がそちらへ行く予定でしたのに。」

タクシーは雨の中、市内の温泉地まで二人を運んだ。

到着し、支払いを済ませて、宿の中へ入った。
幸村は地元の宿と言えど初めて入ったようで、辺りをきょろきょろ見渡している。
確かに地元でも有名な高級旅館。学生の身分では立ち入ることなどないだろう。

「いらっしゃいませ。」

宿の女将と思われる女性はにこやかに二人を迎え、雨の中大変でしたね、と声をかけながら、政宗の持っていたバッグを受け取った。

「急な宿泊で、すまねぇな。」

いいえ・・と、女将は振り向き様に微笑んだ。







予約を入れたのは、今日の昼過ぎ。
明日の昼までには戻ると副社長の小十郎に約束をした手前、その分の仕事は終わらせなければならない。急遽、無理矢理休みを取った代償は『社長』には重かった。

だが、それでも会いに来る必要があった。

会わなければならなかった。



『織姫と彦星は、今日は会えるのでござろうか』




昼休みに電話した際、ポツリと言った幸村の言葉。

TVでも七夕という、年に一度の恋人の会瀬というイベントにちなんでか、頻りに気象情報を放送している。

確かにここ数年、曇りや雨が続いている様に思う。確か、上田もそうだ。

「さぁな、今年は、どうだろうな?」

政宗は窓越しに空を見上げながらそう言った。多分、今幸村も空を見上げているのだろうとも思った。

『気象予報では上田は夜は雨な故・・』

今年もかよ・・と、笑ってやろうと思ったら、

『ほんに、織姫は寂しくないのであろうか。』

その言葉に、ドキリとした。

『・・織姫を思えば、某はまだまだ幸せでござるな。この前・・春にも政宗殿は上田に桜を見に来てくださった。』

はは・・と、笑い声が聞こえるも、それはなんだか寂しそうで。

仙台に本拠地を置き仕事をする自分と、上田の大学へ通う幸村。

400年前よりも、立場も距離も縮まった。それでも遠距離恋愛な故の寂しさは、味合わせてしまっているのは承知している。

企業のトップとして、仕事に追われてというのは言い訳になってしまうが、なかなか会いにいけないのは事実だ。

「なぁ、幸。」

『はい?』

そして、こんなに寂しそうな幸村の声を聞いてしまったら・・・

「今日、仕事が終わったら上田に行く。」

『えっ!』

「バイト休め。」

『バ、バイトは休みでござるが・・』

「OK,・・じゃあ、また、夜な。」

携帯の通話ボタンを切り、デスクの電話を取り小十郎を呼んだ。

上田へ行くことを伝えれば、はぁ、とため息をつき、「お帰りは何時ですか?」と、静かに問われ、

「何時帰ってきてほしい?」

とふざけた物言いをしてみたら、

「昼には。」

短くも、厳しい答えが帰ってきた。
それでも小十郎が、宿の予約と新幹線のチケットを手配してくれたのは、ありがたかった。
それからは今日の分の仕事を終わらせるべく、久々にホンキを出した気がする。




「政宗殿、いかがでしたか。」

「ああ、いい湯だったぜ。」

風呂上がり。

浴衣のまま、廊下を歩く。

「そうで、ござろう?」

にこやかに幸村が微笑んだ。

「”某の”、隠し湯にて。ここの湯には昔、世話になり申した。」

「俺につけられた傷もここで癒したか?」

「はい。」

戦国武将の縁の湯だという此処に、幸村は自慢げに笑った。

そして部屋に入り、二人して今だ雨が降り注ぐ窓辺にたたずむ。

「政宗殿、本日はありがとうございました。」

「いや、俺も幸に会えて嬉しかった。」

肩を寄せ、後ろ髪を取り指に絡めた。

「・・織姫に申し訳なく思いまする。」

星の出ていない空を見上げながらそう言う幸村が可愛くて。

「幸・・・」

額、頬、唇・・と、キスを落としていく。

「こっちから見れば会えねぇ様に見えるがな?・・あいつら星だぜ?雲の上じゃ、毎日会っていやがるんだ。」

「・・なっ!政宗殿!なんてそんな夢の無いことをっ!」

予想通りの幸村の反応に、クスクス笑いながら

「すまねぇ。星に、嫉妬した。」

そう言えば、ポカンとした表情。そして、徐徐に頬が赤く染まっていった。

そんな頬に、もう一度キスを落とす。

浴衣の襟に手をかければ、その手を捕まれ、拒まれて。

「これよりは、寝所にて・・」

手を引かれ、別室へと誘われる。

「某の彦星は、雨でも川を渡って来てくださった。」

捕まれていた手に頬を刷り寄せながら、幸村が言った。



「俺は竜だぜ?どんな荒れ狂う川だろうが、お前の為なら渡ってみせる。you see?」

襟元へ手を寄せて

「会瀬の叶った恋人達が、する事っていったら・・・なぁ?」

「は、破廉恥にござる!」

「誘ったのは、織姫だぜ?」

するりと肩から浴衣を落とす。



「会いたかった。」

耳元で囁けば、

「某も・・」

と呟いた。



会瀬の叶った恋人達は


一夜をかけて


愛を


紡ぐ



END

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