BASARA話 

□それも感情の一つとして
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戸口から差し込む月の明かりが眩しくて、俺は目を覚ました。

隣を見れば、奥州筆頭の右目、片倉小十郎が眠っている。

起こさないように、上掛けにしていた夜着からそうっと抜け出れば、旦那がもぞりと動いた。

起こしたかと思ったが、静かな寝息が聞こえる。

他国の者の横でよく眠れるもんだ。

いや、それを言ったら俺様だって今まで寝てたじゃないか。

ふっ、と、笑いが漏れる。

「俺様、忍び失格だね。」

月に向かって呟いて、散らばっていた忍装束をかき集めた。

カチャリと仕込んでいたクナイのぶつかる音がして、急に現実に引き戻される。

敵国の、それも腹心と心身共に繋がった。

繋がってしまった。

これが同国の女子ならば、なんて珠の輿に乗るような想いだろうか。


でも、俺は…


俺様は忍だ、敵国の。


頬を伝った涙が、パタリと床に落ちた。

人間としての、忘れていた感情が呼び戻される。

「こんな…感情、必要ないのに。」

パタリ

パタリ

「必要なのは…人の生を断つ方法のみ」

自分に言い聞かせるために、声に出して呟いた。

理解していた筈なのに、余計な感情が入り込んだのは


この人が優しく微笑むから。


逞しいその腕で、抱きしめるから。


パタリ

パタリ


いけない事と解っているのに、
この居心地の良さから抜け出せない

弱い自分

とめどなく流れる頬の涙を
火薬臭い忍装束で拭っていたら


「笑え、佐助。」


唐突に投げ掛けられた言葉に、俺は驚いて振り向いた。

「笑え。・・・泣いたっていい。」

どっちだよ、と言おうとしたが、唇を塞がれ、それは発する事なく自分の中に消えていった。

そして、未だしっとりと汗ばむ胸元に抱かれれば、先ほどまでの行為を思い出し、心の臓が異様に速くなるのを感じた。

「心の臓が煩ぇなぁ。」

右目の旦那がクスリと笑う。

「あ、あんただって、煩いよ。」

照れ隠しに言い返してみたら

「ああ、生きてるからな。」

真顔で、そう返されて。

「泣くも、笑うも、好きも、嫌いも、生きてるからこそ生まれる感情だろ?
この乱世の世だ。お互い何時死ぬか解らねぇ。だけど、俺達は今、生きている。


だから、


笑って、泣いて、


また


  笑え


     佐助。」


月明かりで照らされた彼の顔は穏やかで
戦渦を駆けるあの鬼は何処へ行ったのか。


胸に抱かれながら、夜空を仰ぐ。

月は双竜を思わせるから好きじゃない。

だけど、主があっての従者だと、独眼竜が居ての片倉小十郎だと、彼は言う。

それを言ったら俺様も同じだ。

生きるも死ぬも、あの人次第。

「佐助・・・」

名を呼ばれ、首筋に顔を埋められれば、ちり、と首筋に小さな痛みが走る。

「・・・やめっ・・!」

慌てて彼を引き離し、首筋を押さえた。

痕を残すのはご法度だ。

「どうせ忍装束で見えやしないだろ。」

「でも・・・」

「これを見つけられたくなかったら、死ぬ気で自分の首を護るんだな。」

旦那は笑いながら、そう言った。

俺様が殺られたら、身包み剥がされて曝し首。運良く陣地に戻れたって、きっとコレは、ばれてしまう。


そんな俺への、

お守り代わり。


「今度生まれ変わるんなら、戦の無い時代に生まれたいね。」

「そうだな。」

「そしたらさ、峠で茶屋なんて開いちゃってさ。真田の旦那が毎日団子食いに来るの。」

「ああ。」

「そしたら片倉の旦那もおいでよ。独眼竜も・・・来てもいいよ。」

子供みたいに夢物語を話す。

座敷に差し込むお月さんの光は、相変わらずに眩しくて。

この、真ん丸お月さんは、来世でも変わらずそこにあるんだろうか。


「生きろよ。佐助」

「小十郎さんも、生きて。」


そして月明かりの元、俺達はまた、深く、深く、口づけあった。


END
・・・・・・・・・・
小十佐で戦の前

笹/川/美/和さん 『笑』を聞いての妄想


→次頁 side小十郎(自分絵有り/注意;;)
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