BASARA話
□3月14日
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辺りが”良い香り”から”香ばしい香り”になってきた頃を見計らい、佐助はオーブンのドアを開けた。
「よし。」
一言呟き、それをテーブルへと移す。
木の実をふんだんに使ったタルト。お客様にも好評で、佐助の得意な一品だ。
明日は3月14日。
ホワイトデー
クッキーやマシュマロをはじめ、ケーキやタルト、プディングまで、様々な注文が入った。
注文してくれたお客様は、cafe BASARAの常連さんのご主人や彼氏、そしてここを休憩場所にに選んでくれたサラリーマン、そして学生などなど。
注文の数だけ、幸せがあるということだ。
生菓子は明日の朝から作るとして、事前に作っておける予約商品は、これが最後。
後数分で針と針が交わる時計を見つめて、ふう、と溜め息をつく。
「おわったか?」
すでに私服に着替えたこの店の店主が声をかけた。
「片倉さん。」
「もう閉店したんだがな?」
「ん・・、こ、小十郎さんっ。」
少し照れながらも、名を呼び直す。
明日がホワイトデーということは、バレンタインデーから1か月。
つまり、自分達の想いを伝えあってからちょうど一月が経とうとしている。
「進み具合はどうだ?」
「これで終わりだよ。」
「そうか。」
お疲れさん、と、小十郎は、佐助の体を引き寄せ、きつく抱きしめた。
首筋に顔を埋められ、すぅ、と香りを吸い込まれた。
「甘い匂いがするな。」
「ちょ・・!何やってんのさ!!」
じたばたもがくも、本気で離れようとしていない事は明白で。
髪を束ねている迷彩柄のバンダナから真っ赤になった耳が覗いている。
その時
ボーン・・ボーン・・
店内の古い壁掛け時計が午前0時を知らせた。
「ホワイトデーだ。」
小十郎は未だ腕に佐助を納めながらも、パンツのポケットからリボンが掛けられた小さな箱を取り出した。
それを見た佐助は、あ!と声を発し、小十郎の腕を振りほどいて厨房の奥に行ってしまった。
暫くして戻ってきた佐助の手にも、リボンが掛けられた小さな袋。
にこりと微笑み、はい、と小十郎に差し出した。
「ありがとう、佐助。」
「一番最初に食べてもらいたかったんだ。」
リボンをほどけば、ふわりと漂う甘い香り。
ナッツを練り込んだクッキーは、季節やイベントを問わず、この店の人気商品だ。
一つ摘まんで口に放り込む。
うまい、と言えば、佐助は当たり前だと言うように、得意気な笑みになった。
そして小十郎は、無言で自分の持っていた箱を差し出す。
「あ!これ・・俺の好きなブランドだ。」
箱に印刷してあるブランドのロゴを見つけ「あけていい?」と、弾んだ声で小十郎に問えば、ああ、と短い返事が聞こえた。
「バッグや靴が、ここのだろ?好きなのかなと思って。」
「うん、大好き!」
丁寧にリボンをほどき、そうっと蓋をあけた。
中に入っていたのは革製のキーホルダー。
それと、
「鍵・・・?」
「そう。」
「どこの?」
「ここの。」
「お、俺・・・持ってるよ?」
「店じゃねえ。二階の自宅のだ。」
佐助は無言のままその鍵を見つめ続ける。
「この一ヶ月、毎日思っていた。日中はずっと一緒なのに、なんで夜はいねぇのかって。」
「そんなの仕事で・・ここ来てん・・だ・・から・・んんっ!」
再度小十郎の腕に閉じ込められて、口づけられた。
唇を舐められ、舌をきつく吸い上げられる。
ちゅ・・と音を立てて唇を離せば、はぁ、と佐助から吐息が漏れた。
「小十郎さんのバカ。ここ、厨房・・。」
睨み付けるも潤んだ瞳ではそんな効果はなく。
赤くなったその顔に、小十郎はクスリと笑った。
「だから、ここに一緒に住めばいいと思ってな。」
「・・・!」
「住宅手当てとして、住居の一部をスタッフ用に開放する。・・・俺のベッドの半分とか。」
「はぁ?何言ってんのっ!」
真面目な顔でそう言われ、佐助は思わず叫んでしまった。
腰に回された手により引き寄せられ、身体の隙間はゼロになる。
「規則としては、毎日旨い朝飯を作ること。」
「き、規則って・・」
「だめか?」
優しい眼差しながらも、しゅん・・とした困り顔はいつもの強面からは想像できない弱々しさで。
確か、1か月前もこの表情にやられたんだっけ・・と、思い出す。
「あー・・。朝の・・、朝のコーヒーを”店長”が淹れてくれるなら。」
恥ずかしさを隠すために、恋人の名を昔の呼び名で呼ぶ。
「って、ことは・・・」
「お願い・・します。・・・・・わぁっ!!」
抱き締められていた体制から、急に抱き上げられた。所謂お姫様だっことやらで。
下ろして、と叫ぶも完全に無視を決め込む店主。
「じゃあ、明日の朝から楽しみにしてていいんだな?」
「ごめん、明日は朝イチから、シュークリームとプディングの製作っ!」
それを聞くと、はぁ、と、心底つまらなそうな声が、佐助の耳を擽った。
「来年からバレンタインとホワイトデーは休みにする!」
「なんで?」
「佐助の「愛」を他の奴らに食わせてなるものか。」
「だめっ!稼ぎ時!」
ふざけた提案に真面目にダメ出しをする恋人に。
労いの気持ちと、愛しさをたっぷり込めて
頬にちゅ、とキスをした。
END
そして美味しく頂かれちゃえばいいんですよ。
3日遅れですが、ほわいとでー話。
キス以上の描写が書けないんですorz
なぜって、文章能力が無いのと、恥ずかしいのと。いつかR18をつけてみたい♪←
お読みいただき、ありがとうございました。