BASARA話
□春よ恋
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幸村の妹の雛人形が飾られた。それはもう華やかな事この上ない。
女手で準備される桃の節句だが、その準備すら姫には楽しみらしく、「兄様もいらしてね」と書かれた文が、飾る日取りが決まって直ぐに侍女の手により届けられた。
祝いの品を持って来てみれば案の定、人形やお道具で遊んでおり、これには幸村も苦笑した。
「姫よ、準備は如何した?」
なかなか用意が捗っていない様子に幸村は苦言を呈するも、妹のはしゃぐ様子はまた可愛いもので、ついつい笑みがこぼれる。
「飾り終わったら一緒に菓子を食べよう。…佐助!」
「はいはい…っと。さあ、姫様。終わったら、ですよ?」
共に来ていた佐助が持っていた包みを広げれば、姫をはじめ侍女までもが、わあ、と声をあげた。
「兄様ありがとう。…それでは早く飾って差し上げましょう。」
満面の笑みを浮かべながら、菓子と幸村を交互に見やり、
「佐助!」
「はいぃ?」
主…ではなく、主の妹君より名を呼ばれ、驚きの表情で返事をした従者に幸村は、あはは、と声を出して笑った。
「さぁ、佐助も手伝うのです。敷布が大きいので難儀しておりました。」
さぁ早く、と、姫が佐助の手を取り、座敷に誘う。
「姫よ、…俺では駄目なのか?」
「佐助の方が器用にござりますれば。」
ピシャリと言われ、シュンとした様に兄としての威厳は無い。
「だ、だんなぁ…」
「さぁ、佐助!はようこちらへ。」
手を引かれ座敷に入ってゆく従者をみて、幸村はにこりと微笑んだ。
……自分は道具だ、殺しの為の
佐助は時々そういうけれど、だけどこうして妹にも好かれ、共に無病息災を祈ってくれる。
座敷を覗けば妹と佐助の、大事に人形を抱える姿と時折聞こえる笑い声。
「…春だなぁ。」
まだまだ上田は寒いけれど、それでもここだけはもう春だ。
そんな事を考えていたら、衣擦れの音と、兄様、と呼ぶ声と。
「終わりましたか?」
「兄様!佐助には良い人がおありですか?」
「どうしたのだ?急に。」
姫様ぁぁ!!…と座敷の奥から聞こえるが、幸村はそれは聞こえぬふりをして、目の前にいる妹の話に耳を傾けた。
「お内裏様を大事そうに抱いて、お雛様を羨ましいと言うのです。これはもう、好いた人がいるのではないですか?」
その言葉にドキリとするも、流石はおなごだと感心せざるを得ない。
「佐助に聞いても、はぐらかすばかりなのです。」
唇を尖らせながら、ちらりと佐助を見る姿が可愛くて仕方がない。
恋を夢見るおなごと、想い人がいる従者。
どこかの風来坊ではないけれど、恋は皆を幸せにする。
この子もいつかは想う人が出来る時が来るのだろうか。
「姫よ、内緒なのですが…」
そう言って、縁側より妹を抱き上げる。
そのまま庭先へ出れば、暖かい日差しが二人を包んだ。
「本当に内緒だぞ?…佐助には、遠く離れた所に想う人がおる。」
「やっぱり!」
「二人はとても愛し合っているのだが、国も違えば位も違う。佐助はそれを気にかけて、あまり話したがらないのだ。」
「そうなの…。」
「俺は、いつか国も位も関係なく、人を愛せるような、そんな世を作りたく思っている。」
そういえば姫はにっこり微笑み、
「約束ですよ。」
おでことおでこをコツンと当てて、くすくす笑う姿は、これこそまるで恋人のようで。
どこぞのお殿様が見れば、妹と言えど、さぞヤキモチを焼くだろう。
「姫よ。さぁ、早く飾ってあげましょう。お内裏様も、家臣が側に居らねば難儀でしょうぞ。」
「そうですね。」
そして縁側に姫を下ろして座敷き戻る後ろ姿を見ていたら、不意に立ち止まりこちらを向いた。
「兄様。佐助や私のためだけではなく…勿論、兄様もですよ?」
そう言ってにこりと笑ったその顔に、
「…承知いたした。」
と、苦笑混じりで返事をした。
やっぱり幼くとも、おなごはおなごなのだ。
奥州の雪は溶けただろうか。
お伺いの文を送ってみよう。
お内裏様とお雛様が羨ましいと記したら、あの方はどんなお返事を下さるのだろうか?
「春だなぁ…」
奥州に続くこの空に、幸村は想いを乗せて、もう一度呟いた。
END
すみません、かなり捏造。
桃の節句の描写が江戸時代みたくなったし。
何かの資料で幸の妹で於菊という名を見つけたので、当初、お菊と表示してましたが、それって娘・・・;;
勉強不足ですみません。
結局妹って、いたのかな。←オイ!!
ただ、奥州の殿様にヤキモチ焼かせたかったんです。
…抱っこしたりとか。
……なんかもうすみません。
ここまでお読み下さってありがとうございました!