BASARA話
□願い事
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一
ガタンゴトンと電車に揺られる。
只今午後の11時30分
なのに車内は明るい声が満ちていて。
「大晦日だねぇ…」
「…だな。」
佐助の呟きに、幸村が外を眺めながら言った。
――ねぇ、旦那。二年参りに行かない?
誘ったのは佐助だった。
いつもの神社か?という問いに、首を横に振りながらにこりと笑った。
そして、
―――名前…わからないんだけどね。
でも場所は聞いたから、と、困ったように笑う従者に、主はただ呆れるしかなかった。
「次で降りるよ。」
駅が近づき、佐助が立ち上がる。
ホームに近づくにつれ、待つ人の列が見えてきた。車内から降りようとするのは自分達のみ。
この駅からもう少し乗れば、「昔」の自分達も行った神社にお参りができるのだがな、と、少し寂しく思いながら佐助の後に続いて電車を降りた。
少し歩くと民家の中に寺が見えてきた。
門は明るく照らされて、人の出入りも見える。
佐助を見やれば、心なしか嬉しそうだ。
「あそこか?」
「うん、多分。」
「多分…とは?」
「あの駅で降りてこの方向なんだけど。でも…見てみないとわからないし。」
見てみないと?と幸村は言葉を返した。
ここへは初めてくるような口振りだが、何かあるのだろうか。
佐助から誘われて出掛ける事は多々ある。だけど、このような曖昧な物言いの佐助は珍しかったが、あえて聞き出そうとはしなかった。
それよりも息を吸い込む毎に冷えた空気が体内に入ってきて、それから逃げるのに精一杯だ。
幸村はぐい、と、マフラーを口許まで上げた。
門を潜り、大御堂へと続く道をゆく。
お参りを終えた人々とすれ違いながら、視線は真っ直ぐ本堂へと向けられていた。
自分達の番が来て、幸村は静かに手を合わせる。
「また、お会いすることができました。」
ポツリと言った佐助の言葉に顔をあげれば、今だ本尊を見つめたままの横顔が。
「また…とは?」
「昔昔、とあるところに優秀な忍がおりました。」
突如始まった昔話に思わずクスリと笑みが漏れたが、幸村は黙ってそれを聞くことにした。
「自分の主の領地に敵国の忍びの影があるという部下からの伝令で、偵察に行ったはいいが不覚にも、山中で傷を負う羽目となり、動けなくなってしまいました。」
そうか、それで?と、合いの手をいれる。
「季節は晩秋。寒さに震えるその忍は地を這うようにして歩き出し、そして小さなお堂を見つけたのでした。」